12月30日 Side涼9
「涼ちゃんこれ見ていい?」
凪沙が目をキラキラとさせながら私の部屋にあったアルバムを掲げてくる。
そんな表情も可愛くて、これは断れないなって思い“どうぞ“と了承をした。
机にトレーに乗せた2人分の飲み物とクッキーを置いて、凪沙の隣に座る。
「そんなに写真は多くないんだけど……」
小さい時はたくさん親が撮っていた写真も大きくなるにつれて減っていく。多分どこの家庭も子供の頃の写真はたくさんあってもある程度大きくなると自然と少なくなっていくものだと思う。
凪沙が早速一ページ目を開いた。
「か、可愛い……」
「赤ちゃんの頃の写真なんてそこまで違いがあるようには思えないけど……」
「そんなことないよ。なんとなく涼ちゃんの面影はやっぱりあるよ」
凪沙が一つ一つ確認するように眺めて、どの写真に対しても可愛い可愛いしか言わなくなった。
ページが捲られていくたびに私が徐々に成長していく。
小学校低学年だった私が高学年に成長していくと、顔つきもさほど今と変わらなくなっていく。
「なんか高学年になったら一気に身長伸びた?」
「そう。成長痛がいちばん酷かった時期だね」
第二次性徴期の頃だ。それまでは身長もクラスの女子たちの真ん中から少し低いくらいだったのが、徐々に他の女子達を抜き去って小学校を卒業する頃には、背の順で並んだ時うしろから数えて二番目くらいの位置にいた。
他の体の変化もあって色々と戸惑った時期でもある。
「あ、制服着てる。もう中学生になっちゃった。この頃は髪が長かったんだね」
「中学でバスケ始めて、最初は髪を縛ってやってたんだけど、邪魔になって卒業するくらいに切ったんだよね」
身長が伸びた影響もあり、中学に入学して誘われたのがバスケだった。元々体を動かすのは好きだったし、バスケもなんとなくかっこいいイメージがあったから始めてみた。周りの視線も増えていったようにも思う。
「髪が長い涼ちゃんも可愛いね」
凪沙がアルバムをめくっている手が止まった。
「なんか、私……」
一枚の写真を眺めて考え込むそぶりを見せている。
「……知ってる、かも?」
その写真には私が写っている。中学のカバンを背負い振り向きざまに撮られた一枚だ。
特別他の写真と変わらないようにも見えるけど、その写真には一緒にイケメンな猫のストラップが写っている。
この頃にはもうすでにスマホを使っていたので、スマホに付ける場所がなかったイケメンな猫のストラップは私の中学のカバンに付けられている。
私は机の引き出しから、中学のカバンに付けられていたイケメンな猫のストラップを取り出した。
所々色が禿げたり、傷がついていたりするイケメンな猫のストラップは紐の部分が切れてしまって今は引き出しに大切にしまわれていた。
「それ……」
凪沙が不思議そうにイケメンな猫のストラップを眺めている。
「私、昔それと同じの持ってた……」
「このストラップ、中学の時にもらったんだよね」
「……誰から?」
凪沙の隣に座り直して、凪沙の手にイケメンな猫のストラップを乗せた。色褪せ傷がたくさんついているイケメンな猫のストラップをコロコロと手のひらで転がして、名前を探すように眺めている。名前なんて書いてはいないけど、元々誰のストラップだったのかを探しているような雰囲気だ。
「すごく可愛い人だった」
「………」
「すごく優しい人だった」
「………」
私はあの日の事を忘れたことは一度もなかった。何度も何回も思い出しては、もう一度会いたいと願っていた。
でも、会えたところで私は何もできないとわかっていた。事実、何もできなかった。
私はまたあの日の事を思い出す。
今隣にいる人にあの日のことを語り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます