12月29日 Side涼8
「あ、あの……結……」
私は後めたさを感じて結の様子を伺った。
結自身も凪沙のことが好きでファンクラブに入っているくらいなのだから、表面上はなんでもない風を装っていても内心は嫌な思いをしているんじゃないか。
私と凪沙が付き合っていると知って、辛い思いをしているんじゃないかと心配になった。
逆の立場にいたら私はこの場にいられないくらい辛くて泣き出してしまうと思うから……
「何?まだ何か隠してるの!?」
「いや隠してることはないんだけど……私たちが付き合ってるの知って……嫌じゃない?」
結の目がきょとんと丸くなった。視線がスーッと上を向いて何かに気づいたようにハッとした。
「大丈夫だよ涼くん。涼くんが凪沙ちゃんの事がすっごく好きなのはわかったし、涼くんに抱かれてる凪沙ちゃんも顔赤くして可愛いし、好きなんだろうなぁってわかっちゃったから。ファンクラブってね、凪沙ちゃんの幸せを願っているクラブなんだよ。だから、凪沙ちゃんが幸せなら私は嬉しいよ」
白い歯を覗かせて笑った結は心からそう思っていると私に思わせてくれた。
私の腕の中にいる凪沙を見ると、顔を赤くしながら照れた笑顔を見せる。ファンクラブを作った龍皇子さんが言っていた。凪沙の幸せを願う人たちを集めたクラブだと……
凪沙をぎゅっと抱きしめて、離れないですんだ喜びと、結の言葉がすごく嬉しかった。結も大事な友達だから嫌な気持ちにさせてしまったらと不安だった。
「ありがとう結」
「どういたしまして?」
結はニコニコとした顔から一変、表情を消して「それはそれとして」と話を続けた。
「いつまで凪沙ちゃんを抱きしめてるのかな?いい加減離れてくれないかな?」
結が私に詰め寄って私が抱きしめている凪沙の手を握った。
「凪沙は私のだからいいでしょ!?」
「そうだけど!!見せつけるのは違うんじゃないかな!?」
「見せつけてるわけじゃないよ。結がそこいいるだけ」
「凪沙ちゃんもいつまでも抱かれて困ってるんじゃないの?」
「そ、そんなこと……」
ちらっと凪沙を見たら、苦笑いを浮かべている。
ちょっと腕の力を緩めれば、凪沙はゆっくりと離れていった。
「ごめんね涼ちゃん……ちょっと……恥ずかしくなってきちゃって……」
流石にちょっとベタベタとしすぎたかもしれない。
「あとね。結ちゃん」
結に手を握られている凪沙は結の方へと振り返った。
「ありがとう。私のことを想って涼ちゃんと勝負して、ファンクラブも私の幸せを願う?とかで入ってるなんてしらなかったから……嬉しい。すごく結ちゃんに大切にされてるんだなって感じちゃった……ありがとう」
微笑んだ凪沙の手が結の手をキュッと強めに握られた。
「凪沙ちゃん……」
結の瞳に涙が溜まる。
今にも落ちそうになっているが、結は気にせず凪沙に抱きついた。
「凪沙ちゃん!やっぱり涼くんと別れて私と付き合って!!絶対幸せにするから!!幸せを願うんじゃなくて、私が凪沙ちゃんを幸せにするから!!」
「えぇ!!」
「ちょっと!!結離れて!!凪沙から離れて!私の凪沙だから!凪沙は絶対に渡さないから!!」
「えっとあの……ええぇ……結ちゃんって私のこと……」
結に抱きしめられたまま凪沙は戸惑った様子でチラチラと私を見てくる。そこはすぐに否定するところだよ!!なんで戸惑ってるの!?
「こんな独占欲が強い涼くんより私にした方がいいと思うよ?」
「凪沙を離して!!」
結と凪沙を引き離そうと結を引っ張るが抱きついている結は全く離れようとしてくれない。
戸惑った様子だった凪沙が口を開いた。
「ご、ごめんね。結ちゃん……結ちゃんがいい子なのはすごくわかってるし、私のこと大切にしてくれてるのはわかるんだけど……涼ちゃんと別れることは考えてなくて……ごめんね?」
ギュゥゥゥと抱きしめたかと思えば、結がゆっくりと凪沙を離した。
「わかってるよ。凪沙ちゃんが涼くんと別れないって事……あーもう……涼くんには勿体無いけど……お似合いなのが悔しいなぁ」
短い髪をボリボリとかいて深く息を吐いた結は、凪沙に優しく微笑みかける。
「凪沙ちゃん。幸せになってね?2人のこと応援してるから」
「ありがとう結ちゃん」
今度は凪沙から結に抱きついた。少し驚いた結はすぐに凪沙を優しく抱きしめ返した。
「それと凪沙ちゃん」
「何?」
凪沙の耳元で何か言っているが近くに立っている私にもバッチリその内容は届いていた。
「涼くんと別れたら私の所においで、いつでも待ってるから」
「んえっ!?」
「別れないよ!!絶対そんなことにならないから!!」
パッと両手を上げて離れた結は「冗談だよ〜冗談〜」とニコニコと笑っている。
冗談には聞こえないくらい真剣な言い方だったんだけど、口には出さないで絶対凪沙と別れないと誓うように凪沙の手を握った。
「それじゃ、私は先に帰るね!次は始業式とかかな?良いお年を〜」
結は手を振って校舎に走っていった。
凪沙が手を振りながらポツリと呟いた。
「やっぱり結ちゃんいい子だね」
凪沙と繋いでいる手に力が入った。
手を振り終えた凪沙が不思議そうに私を見上げてくる。
「絶対何があっても結だけには渡さない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます