12月29日 Side涼7
鳴り響くタイマーを呆然と見つめる。
チームメイトが集まり勝利したことを喜び合っている。
負けた。
フリースローを外し落ちたボールを相手チームが取った。ディフェンスに入ったがボールを奪うことができず、そのまま試合が終了した。
結に負けた。試合には勝ったかもしれないが私は勝負に負けたのだ。
私は16得点、結が17得点。あと一本入れられたら……第3クォーターに出られていたら……フリースローを外さなければ、タラレバが頭の中を支配する。
相手チームとの挨拶を済ませ、コーチからお叱りをいただいたが、全てが右から左へ流れていった。
解散となり着替えを済ませて、荷物を入れたリュックを手に取った。
「私の勝ちだね!涼くん!!」
笑顔の結が近づいてきた。眉がピクリと跳ねて、結を睨む。
「わかった?凪沙ちゃんは涼くんのものじゃないからね?」
ふふ〜んと鼻を高くして指を左右に振っている。なんとも憎らしい。
徐々に人が少なくなっていく更衣室で私と結が向かい合っている。
「凪沙は私のだよ……」
負けた劣等感から弱々しく反抗をする。ここだけは曲げられない。曲げたくもない。凪沙が私のじゃなくなるってことは、凪沙と別れるっていうこと。それは絶対に認めてはいけない。
「まだ言うの!?涼くん!!負けたんだから!わかってよ!!」
「絶対ヤダっ!!!!」
手に取っていたリュックを無造作に肩にかけて結から逃げ出した。
更衣室を出ると他校の生徒や在学生。応援に来ていた人たちがあちこちに見える。周りを見渡しながら待っていてくれているだろう凪沙を探した。
「涼くん!!逃げるのはなし!!負けを認めてよ!!」
「ダメ!!絶対ダメっ!!」
負けたのはわかっている。私は結に負けた。でも認められない。凪沙と別れたくない。
結から逃げるように学校の廊下を走った。途中でコーチに見つかりそうになり慌てて角を曲がったり、生徒にぶつかりそうになって頭を下げて謝った。
「1点差だけど負けは負けだからね!凪沙ちゃんは涼くんのじゃないの!!」
「わからない!!わかりたくもない!!」
試合の後だと言うのに結は元気に私の後をついてくる。
角を曲がって昇降口までたどり着くと凪沙が1人扉の前で待っていた。
「凪沙!!」
「あ、涼ちゃん。お疲れさま〜」
凪沙が笑顔で手を振ってくれる。可愛いけど、私はそれどころではない。凪沙が振っている手を掴んでそのまま走った。
「え!?何?どうしたの!?あれ?結ちゃんも一緒だったの?なんで逃げてるの!?」
凪沙が振り返り後を追うようにして走ってくる結に驚いている。
「涼くん!!凪沙ちゃんを離して!!誘拐だよ!!拉致だよ!!犯罪だよ!!」
「誘拐!?誘拐なの?涼ちゃん!犯罪者になっちゃうの!?」
「結の言ってる事気にしなくていいから!!」
凪沙が私と結を交互に見て慌てている。誘拐されている人が誘拐犯の心配をしちゃうところが凪沙らしい。
手を引いて校舎裏まで走っていく、木の影になっているところまで行って隠すように凪沙を抱きしめた。
「んふっ……」
私の肩に顔を埋めた凪沙が唸った。
走ってくる足音が近づいてくる。
「……はっ。………涼ちゃん?」
肩に埋まっていた顔を上げて凪沙が不思議そうに私を見上げた。
その頭を優しく撫でた。茶色い瞳が嬉しそうに細められた。
「凪沙は……私のでしょ?」
「凪沙ちゃんは涼くんのじゃないよ!!!」
いつの間にかすぐそばに結が立っていた。ムッとしたような怒った表情で私を睨みつけている。
ぎゅっと凪沙を抱きしめた。
「凪沙は私のだ!!」
「涼くんのじゃない!!負けたんだから!!認めて!!」
「やだ!!絶対やだ!!」
「涼くん!」
「ヤダ!!絶対凪沙と別れない!!凪沙と別れたくない!!」
強く凪沙を抱きしめた。凪沙を離さないように凪沙を取られないように……
「りょ、涼ちゃん?」
凪沙が戸惑った様子で私の腕の中で身じろぎをした。
「………別れる?」
結の声が僅かに聞こえた。
「ねぇ。涼くん……別れるって何?」
「……だって、凪沙が私のじゃなくなったら……別れるってことと同じ」
「え、どう言う事?………涼くんと凪沙ちゃんって付き合ってるの?」
結が驚きと困惑が混じったような、なんとも言えない表情をしている。
「だから凪沙は私のだって言ってるじゃん」
「いや、付き合ってるなんて言ってないでしょ?」
そういえば、ハッキリと凪沙と付き合っているとは言っていないかもしれない。
「……凪沙と付き合ってる」
「マ?」
結が口をパカっと開けて“マジ?“と言う言葉を“マ?“と簡略化した。“ジ“しか短くなっていないのに簡略化する意味はよくわからない。
結の視線が凪沙に向いた。
「マ」
少し照れが入った凪沙が一言答えた。“ジ“を簡略化する意味はry
「凪沙ちゃん涼くんのものじゃん!!」
「え?」
いきなり手のひらを返したような発言に驚いた。
「早く言ってよ涼くん!!付き合ってるから、凪沙は私のだって」
全くとブチブチと文句を垂れながら腕組みをした。
凪沙が私の服をちょいちょいと引っ張った。
「結ちゃんやっぱりいい子だよね」
「そうだね……」
私は結に本当のことを伝えても、反対も何もなく受け入れてくれている今の状況に嬉しくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます