12月26日 Side涼3

結が目をパチパチと瞬きをした。


「ちょ、ちょっと涼ちゃん!」


私の言葉に驚いたのか結の手首を掴んでいる私の手に凪沙が手を添える。


「凪沙ちゃんが涼くんのもの?」


何を言っているのか意味がわからないと言った様子で、結がゆっくりと咀嚼するように繰り返す。

結を掴んでいた手を離して凪沙の手を握った。


「凪沙は私のだから」

「何言ってるの?凪沙ちゃんは凪沙ちゃんのものでしょ?」


結が眉間に皺を寄せて私を見つめ返してくる。


「凪沙にあーんするのもしてもらうのも私だけだし、凪沙を抱きしめるのも手を繋ぐのも頭を撫でるのも私だけだから!」


ますます結の眉間の皺が深くなってくる。


「そんなの女の子同士なら別にいいんじゃないかな!?私だってこの間のデートで手を繋いだし、今日だって頭撫でてくれたし!凪沙ちゃんの手作りお弁当だって食べたんだからね!?」

「なっ!!」


そんなの聞いてないんだけど!?

手を繋いでデート?凪沙のお弁当も食べたの!?


私は視線を凪沙に向けると「あっ」と言った表情で凪沙が苦笑した。


本当の話なんだ。私の知らないところで凪沙は結とデートをして、結にお弁当をあげていた。


「涼くん。いくらなんでも凪沙ちゃんを独り占めみたいなこと言わない方がいいと思うけど?」

「独り占めって……そういうんじゃなくて……」


「なんですか?まだ言い訳があるんですか?涼くんちょっと独占欲強いんじゃないかな?いくら凪沙ちゃんが可愛いくて学校一の美人さんと仲が良いからって自分の物って思い上がりも甚だしいと思いますけど?」

「思いあがりって……」


結は少し怒っているみたいに、私をジッと睨んで視線を逸らさない。結が繋いでいた手を取って私と凪沙の手を離した。


だって、私と凪沙は付き合っているわけで、付き合っているからこそ凪沙は私のだと言っているのに、独占欲…思い上がりって……そんなことないと思うんだけど……


凪沙を見るとアワアワと今の状況に戸惑っているようだった。


「はぁ〜。涼くんちょっとそういうのダメだよ?」

「いや、だって………凪沙は――」


「涼くん!!」


結は両手をテーブルについて立ち上がった。

私を睨みつけて視線を鋭くさせている。いつもニコニコとしている結には珍しい反応だった。


「勝負だ涼くん!」

「……え?」


「バスケで勝負をしよう」

「え?なんで?」


「凪沙ちゃんは涼ちゃんのものじゃないってわからせる!!その思い上がりを叩きのめす!!」


結は私にビシッと人差し指を向けて「勝負だ!!」と叫んだ。

周りのお客さんの注目を一心に受けていた。




「絶対わからせてあげるんだから!!」と意気込んでいた結とは駅前で別れた。


結は前回凪沙と駅前で別れた後、連れ去られた事を気にして凪沙を家まで送るとうるさかったが、わざわざ結が電車に乗ってまで凪沙の家に行かなくても、私が凪沙の家までちゃんと送り届けるからとなんとか言い聞かせた。


結局猫カフェにも寄らなかった。結が勝負のことで頭がいっぱいになったからなんだと思う。


勝負の日は今度行われるバスケ部の他校との練習試合。練習試合で勝負するとかどうかとも思うけど、どちらが多くポイントを取ったかで勝敗を決めるらしい。


凪沙の最寄り駅の改札を出て、私は隣を歩く凪沙と手を繋いだ。


「なんでこんなことに……凪沙は私のなのに……」

「そうだねぇ。涼ちゃんは私のだしね」


凪沙は意外にもニコニコと楽しそうにしている。


「なんか変なことに巻き込んでごめん……」

「面白いことになったね?」


全然面白くない。わからせるって何?だって、凪沙は私のなんだからわからせる必要なんてないじゃん。


凪沙が繋いでいた手を握り直して恋人繋ぎにしてきた。


「結ちゃんはやっぱり良い子だよね」

「………」


「結ちゃんが言ってることもわかるし、涼ちゃんが言ってることもわかるよ?私は私のだし、私は涼ちゃんのものだもん」

「………うん」


住宅街に入り凪沙が立ち止まり半歩先を進んだ私は振り返った。

凪沙の茶色い瞳が見上げるようにして私を見つめてくる。


「2人とも応援するけど……ちょっと涼ちゃんを贔屓しちゃうかも……」


少し照れたように笑う凪沙が可愛かった。

私に背伸びをして耳元に口を近づけた。


「だからがんばってね?涼ちゃん」

「ん……」


耳元に近づいて吐息混じりにつぶやいた凪沙がそのまま耳にキスをする。

どこでそんなことを覚えたんだ!?っていうくらいエロくて可愛くて、キスをされた耳はきっと真っ赤になってしまっているんだと思うくらい熱い。


こんな道端じゃなくて2人っきりの空間だったら間違いなく襲ってしまいそうな衝動に駆られる。私はどんどん熱くなっていく顔を俯かせて凪沙の手を引いた。


こんなの絶対がんばっちゃうやつじゃん……


恋人繋ぎをしている手を強く握って私は内側に秘めていたオオカミを押し込んで、無事に凪沙を家まで送り届けることに成功した。


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