12月26日 Side涼1

「涼くんおはよー風邪だったの?大丈夫?」


教室に入って自分の席に座ると私に気づいた結が心配そうに近寄ってきた。


風邪?なんのことだろうと一瞬考えるが、そういえば何も言わずに今週はずっと学校を休んでいたし、退学の話も他の人にはしていなかった。龍皇子さんは知っていたが、凪沙達に教えたくらいで他の人には無闇に話したりとかはしていないのか、私は風邪で休んでいたということになっているみたいだ。


「風邪ね。もう大丈夫だよ」

「今日も休んじゃえば良かったんじゃない?終業式だけしかないんだから」


「成績表もらえないじゃん。休みの日にわざわざ成績表取りにくるのもいやだよ」

「その為に今日登校してきたの!?」


「まぁ……」


それに凪沙にも会えなくなるし、帰りは下校デートのお誘いまで受けてしまった。今日登校してきて良かった。


「それにしてはなんか機嫌良さそう……」

「ん?」


嬉しさが表情に現れてたのか結が不思議そうに私の顔を覗き込んできたと思ったら、急に視線を天井に向けて何かを思い出したみたいに手をポンと打った。


「あ!涼くん!今日部活ないでしょ?ちょっとバッシュ選ぶの手伝って欲しいんだけど……」

「ムリ」


私は食い気味に返答を返した。


「何か用事でもあるの?」

「今日は凪沙と帰る約束してるから」


「凪沙ちゃんと!?」


結は凪沙という名前を聞いた途端表情を輝かせた。なんか嫌な予感がする。


「じゃあ、私も一緒に帰っていい?というか一緒にどこかいこ!?!?」

「え!?いや、それは……」


「あ、凪沙ちゃんにも聞かないとだよね?そこはちゃんと確認するよ?放課後でいいよね?一緒に凪沙ちゃんのところに行っていい?」


疑問系で聞いてくる割には人の話を全く聞く気がない結は勝手に話を進めてくる。

返答を間違えた。凪沙の名前を出せばどうなるかなんてわかりきっているはずなのに……私の了承も得ずに勝手に凪沙のところに一緒にいく事になってしまった。


「ゆ、結。今日は――」


運悪く先生が教室に入ってくる。それを見て結は自分の席に戻って行ってしまった。

凪沙と付き合い始めてからの初デートなのに……


終業式中はみんなから体調が悪いの?とか心配されて、成績表はまずまずだったのに席に座って眺めていたら隣の女子から成績下がってたの?とか聞かれた。


どれも私の表情が暗く落ち込んでいたからなんだと思う。



私はどうやったら凪沙と2人きりのデートができるのか考えていた。結に“凪沙と2人きりが良いから“なんて無下にはできないし、それに“私たち付き合ってるから“なんて勝手に結に教えることもできない。


「涼くん。準備できた?凪沙ちゃんの所いこ?」

「うん……」


結は悪気があってやってるわけではないし、根はすごく良い子だっていうのはわかってる。だけど、ちょっと空気が読めないところがある。


凪沙も結が一緒に行きたいと言ったら、きっと断らない。2人きりで帰りたいと私が思っていることはわかっているだろうけど……


私は結の後を足に重りがついているような気分でついていった。



「凪沙ちゃーん!!今日もかわいいね!いつもかわいいけど、今日は一段とかわいいね」

「あ、結ちゃん。結ちゃんもかわいいよー」


結が凪沙のところまで駆け寄って行った。

しゃがみ込んで机に肘を乗せた結の頭を凪沙がよしよしと撫でると、結が顔を赤くしながら照れている。

私の凪沙なんだけど……


「なんだお迎えにきたのか?」


凪沙の前の席に座っている高坂が結の後から入ってきた私に視線を向けた。

もしかしたら結が一緒に帰ることを高坂なら阻止できるのではないか!?私は期待の眼差しを何もわかっていない高坂に放つ。


「それで結ちゃんはどうしたの?」

「あ、今日涼ちゃんと一緒に帰るんでしょ?私も一緒に帰っていい?というかどこか寄り道して帰りたいなって思って!」


少し瞳を大きく開いた凪沙が私を見る。

私は居心地が悪く、肩を小さくした。凪沙は小さく笑って「いいよ」と答えた。


「なるほどねー悠木涼」


凪沙は断らないことはわかっていたけど、私と凪沙の関係を知っている高坂ならもしかしたらそれとなく結を止めてくれるのではないかと、再度期待の眼差しを高坂に放つ。

高坂は机に乗っていた自分の鞄を手に持ち私の隣に立つと、肩にポンと手を置いた。


「ドンマイ。ま、次があるさ」


口の端をニヤと上げて、肩に置いてあった手を上げてみんなに「またなー」と言って東雲の机に向かっていった。

凪沙との付き合ってからの初デート、下校デートは一度しかないんだけど!?!?

役に立たなかった高坂に自分のことを棚に上げて、目を細めて軽く睨んでおいた。


「それじゃあ、どこか寄って帰ろうか?涼ちゃん」

「あ、う、うん……」


凪沙も机の中の教科書などを鞄に詰めて立ち上がり、凪沙の隣には結が嬉しそうに並んだ。

その後ろを私がついていく。仲良く並んで昇降口に向かって歩いている2人の背中を見る。肩と肩が触れ合うくらいの距離……



私の凪沙なんだけど……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る