第28話 迫られる選択、下した決断

 「お、来たかコウ。」

 「中尉、ご足労おかけいたします。」


 候補生たちと休日を過ごした数日後。

 コウは司令、そして副司令として自分を呼び出したアランとヨナに作戦会議室に呼び出されていた。


 「俺を便利屋だと思ってないか?まあだとしても問題は無いが。…緊急といっていたが、何かあったのか?」

 「ああ。是非お前に元『トール』、そして『オモイカネ』として意見を聞きたい。」


 アランはそう言うと巨大モニターに世界地図を映し出す。

 その中でJAエリアをある程度まで拡大しすると、ヨナが説明を始める。


 「中尉もご存知だとは思いますが。ここ数日にて旧中華であるECHとWCHの両エリアを始めとした旧アジア地区を中心に『天使』の襲来、及び攻撃が激しくなっています。」

 「知ってる。お陰で『ナタ』の連中は大忙しらしいな。」


 WCHを中心に活躍しているエース部隊である『ナタ』。

 そこに所属している友人から情報ついでに愚痴を聞かされているコウに取っては今更な話ではあるが、笑って流せるような話でも無かった。

 その様な事をコウが考えていると、アランが頭を掻きながら補足する。


 「『ナタ』も勿論だが他の部隊も休む暇もない。何せ『天使』の連中は正に神出鬼没。どこに現れるか予測が出来やしない。」


 『天使』たちの拠点は現在判明していない。

 分かっているのは『天使』たちが転移機能を持っている事。

 転移する場所にはどうやら条件があると思われる事が判明している。

 条件に関しては調査中ではあるが、直接都市に現れたパターンと周辺に現れ都市を襲いに来たパターンがある事から、条件がある事が予想されている。


 「それによりコチラは常に構えていなければなりません。襲撃が多発しているエリアから増援要請が毎日来ています。」

 「おかげでJAエリアの精鋭たちも出払っちまった。」


 現在JAエリアのA²はもはや各要所に配備された十数機、それもそれぞれ点在しているため所々に数機が今の限界であった。

 コウは何故呼ばれたのかおおよそ把握しながらも、確認の意味を込め聞く。


 「…それで?一体俺に何を言わせようって?」

 「はは、察している癖に。…どう思う?この状況でJAエリアは『天使』に狙われると思うか?」

 「ほぼ間違いなく狙われるだろうな。」


 ほぼノータイムで断言するコウ。

 それを聞いてアランは深くため息を吐く。


 「随分と確信があるようですが、何か根拠があるのですか?中尉。」


 咎めるというよりは純粋に興味といった様子でヨナがコウに理由を問いかける。


 「あー。…完全に俺がそう感じたというだけでデータを取った訳では無いんですが。奴らには少なくとも戦術的な思考を持った個体、あるいは上位存在がいると思っています。」

 「…その存在がいるとすれば、現在のJAエリアが狙われない理由が無いと言う訳ですか。」


 コウの考えに反論する事もなく、ヨナは話を続ける。

 実際のところ反論する材料もない、というのが現状ではあった。

 だがヨナはこの仮説が正しいのであれば納得いく事も多々あるため、少なくとも今は信じる事にする。

 そしてアランもこの話に乗り始める。


 「実際そういった存在がいるんじゃないかという話はあるにはあるんだが、何せ現状維持がやっとだからな。」

 「まあ仮にいるとして、だ。偶発的にせよ意図したものにせよ、今までの『天使』の行動的にこんな隙は見逃さない。出来るなら今すぐにでも戻すべきだ。」


 その言葉を聞いてアランは考え込む。

 だが彼がどのような答えを出そうとしたか、それは分からなくなってしまった。

 何故ならば、緊急を告げるアラートが作戦会議室だけでは無く基地中に鳴り響いたからである。


 「っ!司令室!応答せよ!」


 ヨナがアラートを聞くや否や司令室へ確認を取る。

 どうやらスピーカーにしているようで、内容はアランやコウにも聞こえていた。


 《旧太平洋…PO地区で重力異変が発生!パターンレッド!『天使』です!》

 「…一歩遅かったか。」


 アランが悔やむように顔を歪ませる横でヨナは報告を聞き続けていた。


 「進路は!」

 《どうやらトウキョウ地区へ移動している模様!規模は小型、キューピット級が数十機!中型である権天使級が一機!あっ!先ほど重力異変が収まりました!『天使』のトウキョウ地区到着まであと数時間!》

 「権天使級がいるとはいえまだ小規模。普段なら対処できるんだが…。」

 「現在トウキョウ地区にはA²が三機しか待機していません。そして最も近いこのヨコハマ基地が出せる戦力は…残念ながらありません。」


 ヨナが唇を噛みしめながら吐き出すように絞り出した現実にアランもコウも黙るしか無かった。

 そして彼らは選ばねばならなかった。

 JAエリア最大規模であるヨコハマ基地の防衛を割いてまで救援するか。

 それとも首都ではなくなり、大きく人口が減った現在も五万人以上が過ごしている都市を放棄するかを。


 「…各エリアに派遣した部隊を早急に集結させろ。トウキョウ地区に配置しているA²には住民全員がシェルターに入るまで侵入を防ぐよう厳命しろ。…その後は地区を放棄、撤退させろ。」

 「…分かりました。」


 アランの決断に口を挟む事はせず、ヨナは関係部署に連絡を入れる。


 「何か出来る事あるか?」


 アランにコウはそう問いかけるが、返ってきたのは首を横にする返事のみであった。


 「…お前は自分が最善と思える判断をした。気に止むなと言っても無駄だろうが、それでも後悔はするなよ。」

 「分かっている。済まなかったな、警告も無駄になった。」


 そう二人で話していると、作戦会議室の扉が開き何者かが飛び込んで来た。


 「私たちに行かせてください!」


 飛び込んできたのはシャナであった。

 必死に嘆願する彼女に続くようにリンとアンジュ、リーゼロッテとソフィアが次々と入って来る。


 「お前ら、どうして…。」

 「警報が鳴り響いたため状況を確認しようとここまで来ました。」


 コウの問いかけにソフィアが返すと、アンジュが補足する。


 「そうしたら教官たちが話されていたのが聞こえて…申し訳ありません。」

 「いや、まあ。こっちも大声では話していたが…防音を見直すか?」


 アランが基地内の防音について考えていると、シャナが痺れを切らしたように言い募る。


 「それよりも!教官!司令官!私に、いえ私たちに行かせてください!A²は何時でも出撃できます!」


 シャナの発言はこの状況下では現状を打破する唯一の手に思えた。

 アランとヨナは何も言わず、コウの発言を待っていた。

 彼女たちを直接見て来た彼の意見に全ては委ねられていた。

 この場にいる全員の視線がコウに向けられる。

 そして、その口が開かれ決定を下す。



 「ダメだ。お前らは行かせられない。」

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