怪異ハココニ在リ -2
紙屑は彼の額に命中した。
「な、なんだ──?」
どこから飛んできたのか見定めようときょろきょろする彼の耳をかすめるようにして、今度はペットボトルが飛来した。
そのボトルが床に落ちた音を合図とするかのように、次の瞬間、ゴミ箱の中のゴミというゴミが一斉に吉川君に襲いかかった。
お菓子の空き箱が、不要になって丸められたプリントが、購買のパンを包んでいたビニールが、次々に肩や腹に命中する。
「なっ、なんだこれ! やめろ! やめろって!」
無論、僕も女性陣も何もしていない。みんな一様に立ち尽くして、目の前で繰り広げられるポルターガイスト的現象を眺めるばかりだ。三神さんなどはあまりにも驚きすぎて、気の毒にもキャパシティオーバーに陥ってしまったらしい。口を半開きにして、うつろな目をあさっての方へ向けている。
吉川君が上げていた怒声が悲鳴に取って代わるまで、そう長くはかからなかった。彼はついに尻尾を巻いた。頭を抱え、文字通り脱兎の如く教室の出入り口へ向かう。だがそんな彼の目の前で、戸は勢いよく閉じられた。彼が押しても引いても、それはまるで強力接着剤で貼り付けたかのようにびくともしなかった。
「許してくれっ! 俺が悪かった! もう何も言わねぇっ! だからやめてくれ、助けてくれっ!」
まるでその言葉を聞き入れたかのように、襲撃は始まった時と同様に唐突に終わった──と思った次の瞬間、窓が勢いよく音を立てて開かれた。
冬も間近の冷たい風が、教室いっぱいに吹き込まれる。カーテンが躍る。撒き散らされた紙屑が転がる。その、ごく自然なゴミの動きさえ、すっかり戦意喪失した彼の目には脅威に映ったらしい。ビクンと身を震わせ、胎児のように背を丸める。
「あっ」
不意に須羽さんが、声を上げた。
彼女が目に留めたのは、窓から飛来した紙片だった。新たに登場したその紙はふわりと、ちょうど教室の真ん中あたりに舞い降りた。
拾いに行ったのは那月先輩だった。それを一瞥するなり、驚愕に目を大きく見開く。
吉川君を除く全員が、彼女の周りに集まった。そして手の中の紙を覗き込むと、一様に息を呑んだ。
先輩が拾い上げた紙片。そこには金釘流の走り書きで、こう記されていたのだ。
「私はここにいる ミドウ」
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