怪異いまだ死せず -2

 実はもう質問のネタがないのだった。

 いや、訊きたいことはもちろん他にもある。たとえば、地下教室に持ち込まれた踏み台の跡について心当たりはないか。床に残されていたメッセージをどう思うか。エトセトラエトセトラ。


 しかし、そうした疑問を口に出そうとすると、目を光らせているもう一人のオカ研部員が気になってしまい、直截な追及の文句は奥へ奥へと引っ込んでしまうのだ。まるで巣穴に隠れる臆病なカニのように。


 まったく、もう。これだから僕は、探偵なんかを任されたくないんだ。自分が部長のような分厚い面の皮も、太い肝っ玉も持ち合わせていないことは、重々承知なのだから。

 そんな僕の内的葛藤などどこ吹く風、当の須羽さんは親友と雑談を始めていた。「あんた、まだそれ使ってたの」


 彼女が指しているのは、例の黒いショルダーバッグだった。指摘された三神さんは大きく頷く。「私の相棒だから」


「今時現像してくれるところなんてあるのかね、しっかし」


 このまま手をこまねいていても始まらない。僕も雑談の輪に加わることにした。「それは何?」


「カメラ。来年度の新歓に向けて部活紹介の写真を撮るから、うちから持ってきたの」


「この子は未だにお父さんのおさがりの、昔のカメラなんて使ってるの」やれやれというように肩をすくめてみせながら、須羽さんは言った。「デジカメの方がずっと楽なのに」


 となると、フィルム式カメラか。確かに今どきの女子が使うには、少々アナクロなしろものだ。


「写真屋さんに持って行かなくても、現像なんて自分でできるもん」三神さんは珍しく得意げな顔だ。僕の方に向き直ると、こう教えてくれた。「私、写真部も兼部してるの」


 なるほど。


 ふと、思いついたことを訊いてみる。「あの田中先輩という人も、もしかして写真部の先輩なのかな」


 三神さんは首を横に振った。「違うけど……なんで?」


「実は今日、お話を聞きたくて三年生の教室を探したんだけど、いらっしゃらなくてさ。それで困ってたんだ。三神さん、もしかして田中先輩の連絡先をご存じない? よかったら連絡しておいてくれないかな。都合のよい頃にお話を聞かせてほしいと、香宮が言っていたって」


「あっ、私もアポ取ってほしい」須羽さんが横から口を挟む。「うまい具合にうちの部に加わってくれたら、とっても頼りになりそうだし」


 卒業間際の先輩を勧誘する気かあんたは。


 心の中だけでそんなツッコミをする僕よそに、三神さんは困ったように眉根を寄せた。「うーん……私から連絡するのは構わないけど、あの人普段から既読つけるのも遅いから……」


「そもそもあの先輩と三神さんって、どういう関係なの?」


「……ちょっとした縁があって」三神さんの返事は、それだけだった。僕もそれ以上の詮索は控えることにする。他人様のプライベートな人間関係を詮索して、それで何かがわかるとも思えないし。


 その後も二、三の小さな質問を重ねたけれど、はかばかしい成果を得ることはできなかった。

 僕は二人に丁重に礼を言い、お開きにした。

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