白昼の悪魔
別れ際、川村さんは丁重に礼を言った。「本当にありがとうね。こんなつまらない話を聞いてくれて」
「とんでもないです、すごく楽しかったですよ」
「もし何もわからなかったとしても、変に気にしないで。タダで話を聞いてくれただけでも、こっちはだいぶ助かったんだから」
「恐縮です」
「香宮君に相談してよかった。じゃあ、また明日ね」
「はい、また明日」
相談してよかった、か。
彼女が去った後も、僕はしばらく戸の前に佇み、彼女とのやりとりを反芻していた。
人間ができている人だなぁ、と思う。異性の、それも普段は大して交流もない、さらにいえばスクールカースト的には明らかに下の僕にさえ、ここまで丁重に接してくれたのだから。礼を言うべきはむしろこっちの方だ。先程失礼にも失望の念を覚えたことを思い出し、良心がチクリと疼く。
確かに彼女は民俗学の話を楽しくできそうなタイプの人ではない。だけど、それがなんだっていうんだ? 人柄は僕のそれより、よっぽど上等ではないか。こうして招き入れた側の人間に、気持ちのいい思いをさせてくれたのだから。
うーん、これぞリア充の風格。逆立ちしたってかないそうもない。
ほう、と思わず感動の吐息をついたその時──背後から忍び笑いの声が上がった。ついで何かがむっくりと起き上がる気配。
僕は目を瞑った。
そうら、悪魔のお目覚めだ。
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