第169話 謝罪と考え方
___アルダ視点___
「「「ごめんなさい。」」」
「とりあえず説明を…」
リンちゃんがお店に来た翌日の午前、リビングに集まって5人で頭を下げて謝罪をしている現在。
フランクさんは関わってないのでいつも通りお茶を準備し、びっくりしてるリンちゃんの隣に座る。ちなみにディアはリンちゃんの足元で軽くこちらを睨み中。ごめんね、ほんと。
「昨日の事なんだが、紐付き2人がいただろ?あいつらに関してはある程度情報はあったんだが、確信が持てなかったんだ。リンなら詳細を確認出来るからそこに頼った。すまない。」
「スパイみたいで楽しかったからいいけど、普通に頼まれてもやってたよ?私の作ったポーションが原因でお店のことやってもらってるんだし。」
スパイという言葉が分からず首を傾げると、諜報員の事だと言われた。そこに楽しさを見出すのは早いと思うよ。
「ここからは私からお話しますね。」
「頼む。」
「黙っていた理由はもう1つあるんです。」
「もう1つ?」
「リンさんを試した、と言っても過言ではないのですが。リンさんは奴隷にあまりいい印象を持っていないと感じました。確認したら、ディアさんもそれは感じたと。」
「うん、違法なら最悪だと思うよ。」
リーダーに代わりナリアルさんが話を進める。
この国でも奴隷は悪い人、なってはいけない、またなったら酷い扱いを受けても文句は言えないと考える人は多い。他の国になるとそれが酷くなるから、まだマシな方だけど。
それに犯罪奴隷ならその通りだから間違ってはいないと思う。
そして犯罪や借金など種類問わず、奴隷と一緒に働く事をよく思わない人も普通にいる。当たり前の感覚だし僕たちはそこを考えた。
「問題なしとされた孤児院出身の2人を雇って欲しいと言われ私たちは快諾しました。しかし彼らはアドレー家の養子、またそのアドレー男爵は孤児を奴隷のように働かせていると噂されています。」
リンちゃんは冒険者として外にも出るし、近所のおばちゃんとも世間話をよくしてる。店が開いたら噂が広がり耳にすることがあるかもしれない。
「それを聞いたわたしがどう思うかを聞き出したかったってこと?」
「はい、そうです。私たちが単純に質問をしても、リンさんは遠慮して本音は言わないかもしれないと思いました。決めたことなら従うと。なので実際に見てもらってその反応を答えにしようと。」
「さすがに拒絶はしないだろうと思ってた。逆にアドレー男爵から紹介してもらえと言われるとは思わなかったがな。」
リーダーが苦笑いだけど、みんな同じ事を思った。あの時は斜め上の答えに驚きすぎてどう反応したらいいか悩んだし。
「なんだ、そんなことか。試されたのはあまりいい気持ちしないけど、わたしの意見を尊重しようとしてくれたんだよね?………あっ。ん?待って、ちょっと待ってください。」
急にいい笑顔で敬語になるリンちゃんに何故か寒気がする。
「ナリアルさん、もしわたしが一緒に働けないと言ったらどうするつもりでしたか?」
「別の者を探すつもりでしたが…」
これは…怒ってる?
「それは全員同じ意見ですか?誰かそれに反対した人はいますか?」
「いません。ただ決めたのは私とリーダーで他3人は同意しただけですが。」
「同罪です!!!全員正座!!!!!」
正座と言われ素直に従ったのがレイさん。壁際に膝を折って小さくなってる姿に驚いたが、全員同じように座る。
座った僕たちの前で仁王立ちになるリンちゃん。その横には大きなディア。フランクさんはキッチンに逃げていった。
「わたしが怒る理由が分かりますか?」
本気で分からないので首を横にふる。全員同じだしなんならナリアルさんに関しては思いっきりブンブンしてる。
ディアに頬を突かれ、深呼吸するリンちゃん。両手を握りしめてるから怒ってるのは伝わる。
「ナリアルさんは、2人を雇う事を快諾したと言いました。承諾ではなく快諾です。積極的に2人を雇いたいと思ったのではないのですか?」
「はい、2人に問題がないことは確認しておりましたし、仕事ぶりに関してもギルドが保証できる人物でした。それに孤児院出身者には職に就けない者もいますので…」
「もし私が拒絶したら。2人はどうなりますか?」
「またギルドで働くことになるかと。」
「すまない。俺達が浅慮だった。」
レイさんが頭を下げたが、未だに理解が追いついていない。
「ポーションのお店はアーベンティス家が主導で動いています。ここの領主です。その店で働かないかと声をかけられ、それが無かったことになったら。彼らはどう思われますか?」
僕はなんてバカだったのかと思った。リンちゃんが怒った理由は自分のためじゃない。
「ただギルドに戻って仕事をすればいいと言いますが、変な噂が出たら?アドレー男爵に迷惑はかからない?それに。それに、領主様の関わるお店で働けると思ったのに、無かったことにされた時の2人の気持ちはどうなるの?」
「真面目な2人だよ。何故駄目だったのか考えるんじゃない?そして孤児だったから、いつもと同じって。見えた希望が、光が一瞬で消え去るのは辛い。それがどうにもならない理由ならもっと辛い。」
思いっきり抱きしめた。これは僕たち双子が想像しなきゃいけなかったことだった。そしてみんなを止めるべきだった。
リンちゃんは優しい。優しさ故に自分より他人を優先することがある。だから本心を聞きたいと思って今回の事を計画した。でも全て間違ってた。
「みんながわたしを思ってくれたのは分かる。分かるけど、わたしのせいで誰かが悲しい思いをするのは、いやだよ。」
肩にグリグリと顔を押し付けるリンちゃんに申し訳無さが溢れ出た。しばらく泣きそうなリンちゃんをみんなで囲んでわいわいしてたけど、カルダが足を痺れさせて笑った。
そして約束をした。聞きたい事があるならちゃんと真っ直ぐ聞くと。
何故かナリアルさんは領主の息子である事を自覚しろと怒られていた。自分の行動が何処にどう影響するか考えなさいと。
小さな子どもに貴族としての考え方を教えられてる姿はちょっとおもしろかった。内緒だけど。
しれっとキッチンに行ってたフランクさんは、お菓子をいっぱい持って登場した。その手にあったのは最近リンちゃんがいっぱい作ったパイ料理。
今回の罰として1人1日料理の手伝いをすると決められた。なんて可愛い罰なんだろうと思ったけど、満足そうだからそれでいいんだと思う。
この可愛い天使はどこまで優しいんだろうね。
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