第121話 裁きは適正に

___カルダ視点___


妖精襲来から2日後の今、王城に向かう馬車の中でクッキーを食べている。リーダーとナリアルさん、フランクと僕で乗ってて、他のメンバーは別の馬車。


貴族たちの取り調べがひと通り終わって、審問会の前にどんな罰が下るのか教えてくれるらしい。


「報酬の話になったら通信イヤーカフをもらうか、探してもらおうと思ってる。それでもいいか?」

「いいと思いますよ。」

「あれ便利だったね」


「多くて6個なんだよなぁ。なければ5個か、3つ2セットとか?」

「2個とか3個のなら複数セットあってもいいですね」

「僕はいらないよ?5個でいいんじゃない?帰りの時間教えてくれるなら便利だけど。」


フランクさん、それはなんか違うと思う。いや、便利だけどね?あっ、リンちゃんの帰りが分かるのは良いかもしれない…


「あんまり出回らないからねー。君たちダンジョン行かないし、欲しい個数指定して探してもらうのがいいんじゃない?」

「交渉次第だな」


報酬はかなり出ると思う。帝国関連だしリンちゃん関連だし貴族関連だし。もう盛りだくさんなんだよ今回の事件は。


このメンバーってダンジョンにあんま行かないんだよね。行くとしばらく帰って来れないし、連絡つかなくなるから不便だし。通信魔道具があればそんな心配もなくなるんだけど。


「あの魔道具って距離影響するのかな。」

「国1つの距離は問題ないよ。ただ妨害とか強力結界とかあると通じないこともあるけどね。」


「さすがに万能ではないのか。カルダの結界で実験してみたいな」

「俺はディアに氷漬けにして欲しい。」


「遊ぶには勿体ないので氷漬けは却下です。」

「ガイト、さすがにそれはバカだと思う」

「ちぇーー」


僕でもダメだと思うよ、リーダー。


面白いこと言ってるなーと思いつつクッキーをかじる。昨日フランクさんが焼いてくれた、リンちゃんレシピのソフトクッキー。


昨日、午前中にリンちゃんと一緒に捕まってた子どもたちが帰ると言うのでお見送りした。リンちゃんと話せなかったって悲しそうだったけど、手紙を出せるように手配してもらったし大丈夫でしょ。


午後は妖精のことを主要3人に説明。薬草を渡してもろもろを話して、キッチンを貸せと言うフランクさんに呆れつつも許可をくれたクロードさん。


あのゴリ押し説明で納得してくれるんだもんびっくりだよ。収納魔法のことなんて、さも当たり前のようにさらっと言ってたし。


説明が終わればフランクさんのクッキングタイム。妖精用のクッキーの他にもいろいろ作ってくれて、その内の1種類が今食べてるやつ。


硬いのも美味しいんだけど、服が汚れるから却下された。この騎士っぽいやつ動きにくいし苦手なんだよねー、早く脱ぎたい。


そんなこんなで到着し、軽く手荷物検査を受けて騎士棟に向かう。これから行くのは第1部隊の会議室。中央棟に入るには武器を預けなきゃいかないんだけど、嫌だと言ったら騎士棟に案内されるようになった。言ってみるものだよね。


案内されてたどり着いた扉をノックし、入ると国王様が座って談笑していた。いるだろうと思ってたけどやっぱり心臓に悪い。膝をつこうとしたら止められる。これもいつも通りなんだけど、普通にいるのはやめて欲しい。


「久しぶりだな、紅嵐の盾とフランク。膝はつかんでよろしい。さっさと座れ」


「お久しぶりです、陛下」


フランクさんは何事もなかったかのように座る。いつも思うけど、この人何者なんだろうね。


「面倒くさい挨拶はすっ飛ばして、話に入るぞ。まずナナリー男爵は奴隷落ちの強制労働。脱走出来ないようにいろいろと制限した後、送られる。妻子は無関係と確認が取れたから平民落ちだ。これから厳しい目で見られるだろうからそれが罰だな。」


「どのような罪を立証できたので?」

「横領、脱税、自領の子どもの情報を売る、魔道具の手配だな。」


「なるほど。」

「次にダノリア男爵だが、こちらは子どもの事件に関しては全てやってた。男爵夫人も関わってたって事でそっちは修道院送り、男爵は処刑、子ども二人は魔力が多くて役に立つと魔導士団の研究施設に送られる。男爵領は2つとも大きくないし、近くの伯爵と侯爵の領地になる。」


処刑か。結構厳しいんだな。


「あとフォルターノだが、ただのバカだ。ダノリアと子どもを攫っては帝国の商人に売っていたと自白した。侯爵は処刑、領地は子爵位に降格の上の祖父のフォルカーが引き継ぐ。あと、誘拐実行犯の冒険者2人は拘束済みだ。狼獣人の方は良くて奴隷、最悪処刑。猫獣人の方は人質がいたってことで奴隷落ち確定ってとこか」


「処刑される人間が多いですね。」

「迷い人は私より上の存在だからな。」


「なぜそのような扱いなのでしょう?あまり文献にも書かれておらず不明なのです。教えていただくことは可能ですか?」

「まぁお前達も当事者だからな、知るべきかもしれん。迷い人が確認されたのは今から250年ほど前、その後確認されたのは3人だったと思う。」


「迷い人はこちらの世界で生まれるはずが別世界に迷い込んでしまい、それに気付いた神が送り戻した存在なんだそうだ。結果として別世界の知識や高い技術を持っており、その時代の発展に大きく貢献する者が多いらしい。あと何故か慈愛に満ちてる者が多いと言われてるな。」


「過去、この国に病が蔓延し全滅しかけた事がある。それを救ったのが迷い人で、シャワーや風呂で清潔に保つのが良いと普及させたのが彼女だ。」

「そう言えばリンちゃん風呂好きだよね。疲れてても絶対入るし。クリーン魔法やたら好きだし。」


「面白い娘だな。別の者は食を改善したり睡眠が大切だとベッドを普及させたり、糞尿を垂れ流せば病が蔓延するとトイレを改善させたり。迷い人は国だけでなく世界にも影響を与える存在だ。だから発見した場合は不当に扱われないように保護する決まりになってる。」


「リンちゃんってすごい存在だったんだね」

「まぁ考え方はぶっ飛んでるな。面白いからあのままでいいんだけど。」


リーダーひどい。


「陛下、私の存在忘れてませんか?聞いてしまったのですが」

「いいだろ。どうせいつかはお前も知ることになっただろうし、これで動かせる人間が増えたではないか。」


ニッと確信犯の悪い顔をした陛下が隊長さんの顔を見る。とんでもなく疲れた顔になった。お疲れさまです。


報酬に関しては希望通り通信イヤーカフの手配と入手、それでも余る場合は金貨で受け取る事になった。言ってみるものなんだね。


騎士棟を出て帰路につく。唐揚げ食べたいなー。

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