第3章 第4話

「森の奥に泉があって、そこにいつもいる。昨日と今日はいないけど、明日には戻るって言ってた」


「泉……? 森に泉なんてあったか?」


 ウバーも森へは良く出かけていたが、泉など見たことはないという。ダジリンも同じだった。


「あたしやウバーが気づかなかっただけかな? カーネルさんは見たことないんですか?」


「……泉があることは知ってる」


 知ってはいるが、見たことは無い、という意味だろうか。それ以上は語ってくれそうにないのは、雰囲気で分かった。


「泉の存在は置いておくとして、おれが気になったのは――いや、あの日からずっと気になっていたんだが、アッサムはなんで無事なんだ?」


 アッサムの身体を観察する限り、傷ひとつない。ウバーは、耳と目で得た情報の中に、奇妙な点があるのを見抜いていた。


「さっきの口ぶりだと、魔王に会ったのは一度や二度じゃなく、それこそ毎日のように戦ってたんだろう? それにしては、傷ひとつ残ってない。どう見ても手加減されている。魔王にとって、人間にそんなことをする価値はないはずだろう」


「それは……僕にも分からない。僕はあいつを殺すつもりで戦ってるのに、あいつはデコピンだけで追い払うんだ。すごく痛いけど、それだけ」


「で、デコピン……。痛そうね」


 実際にされたわけではないのに、ダジリンはおでこを押さえてしかめっ面をした。


「もうひとつ。なんで魔王と普通に会話してるんだ」


 明日には戻る――。魔王がそう言ったということは、魔王と会話をしているということ。魔王とはいえ、魔物。魔物が人間の言葉を理解し、会話をするなど、ウバーは聞いたことがなかった。


「魔王ともなりゃ、それくらいの芸当はできるさ」


 しばらく口を閉じていたカーネルが、会話に加わった。チュートリアルに失敗したあの日と同じ、深刻そうな表情をしていた。


「カーネルさん、何か知ってるんですか?」


「……」


 ウバーの問いへの回答は、沈黙で返された。それきり、しばらく誰も喋らず、せっかくの再会の場が重苦しい空気に支配されてしまった。


「ねえ、アッサム。明日も泉に行くの?」


 良くも悪くもマイペースなダジリンによって、沈黙は破られた。会話の論点にとらわれ、話すに話せなくなっていた男たち三人は、ほっと息を吐く。


「ああ、行く。もし明日戻ってきたら、たぶん疲れ切ってるだろうから、自分を殺すなら、その時がチャンスだって言ってたんだ。それと、もしかしたら死ぬかもしれないから、明日来なかったら、死んだと思えって」


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