第5話その2

 カレンダーが8月となり、その初日……。


『転売を繰り返していたグループの一斉摘発が始まっています』


 東京の秋葉原にあるガーディアン本部、その一室でニュースを見ていた男性幹部は別の意味でも驚いていた。


 服装はいかにもミリタリーチックな服というわけではなく、背広だったりする。


 パワードスーツも使用するガーディアンではあるが……。


「現段階で、あのチャフグレネードが警察に押収されたという話は入っていない」


『あの忍者が、ガーディアンに同調して行動をしているとは思えませんが』


 転売ヤーのグループが、8月1日になったその日に摘発されるとは、というニュースを受け、別の支部の男性ガーディアンメンバーと連絡を取っていた。 


 この人物は、つい先日に連絡を取ってきたあの人物でもあるのだが……何故に本部へ連絡しているのだろうか?


「あの会議で話していた忍者の件、あれが事実だったとしたら……」


『そうなる、でしょうね』


「我々としては、そうでないことは祈りたい」


『場合によっては300年以上前の技術と意図的にされている、と書いているまとめサイトもありましたからね』


「AIにしても、ダンジョン空間にしても……江戸時代から存在していたという事になれば、それこそ魔法と認識されるだろう」


『魔法で発電を行う技術が現在のトレンドで、他は……というような『バズり』狙いの記事もありましたが、どこまで事実なのかはわかりません』


「電力にしても、現在の日本は水力、風力、太陽光、それに特別な発電技術がメインだ。火力は非常時のみに加え……」


『300年以上前が、どこまで事実なのかは不明ですが……大量破壊兵器に転用されそうな技術は消滅しています』


「やはり、ガーディアンの技術はこちらの技術を転用した物なのか」


『そう判断するのは早すぎるかと。もう少し、様子を見ましょう』


 2人は、あの技術はどこから来ているのか……と悩む一方だった。


 様々な意見は出てくるものの、そこからどうやって例の忍者につながるのか、という事もある。


「今はダンジョン配信がトレンドだという話を聞く。ダンジョン潜入作戦の件、検討しておこう」


『ありがとうございます。こちらも作業があるので、後程』


 最終的に上層部はダンジョンへの潜入作戦を許可し、いずれ彼の方も動くだろう……とガーディアン側は思う。


 

『転売を繰り返していたグループの一斉摘発が始まっています』


 同じニュースを見て、落ち着きながらタンブラーに入った冷水を飲んでいたのはゆきツバキだった。


『このグループは、先日家宅捜索を受けたまとめサイトともつながっていたことが判明し、更にはジャパニーズマフィアとのつながりも……』


 テレビの方はつけっぱなしではあるのだが、姉もいるので他局へ回すことはなく、そのまま自室へと移動する。


 その間に冷水の方は飲み干し、タンブラーは洗っておいたりはしたが……。



「転売ヤー関係は、これで何とか解決、か」


 転売ヤーの案件に首を突っ込もうとは思わなかったが、大きな騒動になる前に解決したともいえる。


 残るは残党位だが、それも時間の問題だろう。


「せっかく始めようと思ったこれも……」


 パソコンの画面に表示されているのは、白色ベースの忍装束を着た忍者のアバターだった。


 男性アバターで作ってあるのには別の理由もあるのだが。


「やるとしても別ジャンルでやれば早いか。例えばダンジョン配信とか」


 ふと、ツバキは何かを思い出す。忍者構文とは違うのだが、雪ツバキという自分の名前をそのまま使うのはさすがにまずい。


 名前を変えて、密かにデビュー……というのも考えている。そこで本名を使うわけにもいかないが。


「確か、どこかのサイトで似たような名前が……」


 ツバキは過去にロボットゲームを発見した際、気になった名前があり、それを改めて探すことにした。


 雪ツバキという名前自体は、本名を若干もじったような名前にも似ているかもしれないが、実際は違う。


 だからこそ、両親が有名でも本名バレがないわけだが。


「どうやら、まだ残っているようだな」


 ツバキが発見したのは一次創作の小説を中心とした小説サイトである。


 そこで自分のブックマークしている小説の登場人物に、雪華せっかツバキという登場人物がいた。


 そして、ツバキはふと思う。名前を何とか借りることは出来ないか、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る