第3話その3

 ダンジョンしんのダンジョンで暴れている忍者、その名は青凪あおなぎという。


 彼は『バズり』が目的でダンジョンに来たわけでもなかった。


 だからと言って、『忍者構文』が気になったわけでもない。


(自分を認める勢力がいない。ならば、ここは……)


 彼は自分を認める勢力がいないことに対し、行動を起こしたのである。


 安易に『バズり』を目的としているわけでもなく、だからと言って承認欲求を求めているわけではない。


 認めさせるといっても、今まで告知などをしていなかった中で、認めさせようとしている彼の行動は、評価できるものではないだろう。


 彼に悪意はなかったとしても、である。


「次は、あのエリアか」


 次々とモンスターの出現するエリアを突破していき、彼が到着したのは開かずの部屋だった。


 ここは、ダンジョン神も放置を決めていた場所であり、冒険者が訪れる機会が増えた現在になっても、開かない。


 該当する部屋が開かないことに対し、ネット上では「条件が足りない」や「未完成では?」という声が多く、ここは放置してモンスターのいるエリアを狙う冒険者が多かった。


 しかし、ダンジョン神のダンジョンでモンスターを倒したとしてもレベルが上がることはないし、特別なアイテムが入手できるわけでもない。


 アイテムといっても、装備の合成に使うような素材が入手は出来るが、該当する装備がいまだにないのだ。


 そんな中で、青凪は開かずの部屋を開くことができれば、認めてくれるとネット上の情報を集めて悟ったのである。



「あの部屋にたどり着く者が出るとは」


 ダンジョン神は第5エリアのモニターで、青凪が例の部屋にたどり着いていたことに驚く。


 この部屋は放置する冒険者が多く、ダンジョン配信を行う物でもスルー推奨と言われる位には、部屋の扉を開く手段がない。


「しかし、噂の忍者でも放置した場所を……どうするつもりだ?」


 様々な冒険者がこの部屋に到達したのだが、記念写真を撮る者、生配信を行う者、扉に傷を付けようとするが出来なかった者……と様々だ。


 誰一人して部屋を開けようという考えに至る人物はいなかったのである。あの蒼影そうえいでさえも、部屋を確認して姿を消したのも、記憶に新しい。


 しばらく様子を見たダンジョン神は、青凪が別の冒険者の襲撃を受けている場面を目撃することに。


 どうやら、部屋を開くのは自分達だ、と言わんばかりに乱入したようだ。


「冒険者同士の戦闘は禁止されているはずなのに、なぜに争う?」


 ダンジョン神のダンジョンでは基本的に冒険者は協力してモンスターを討伐する事を目的とし、冒険者同士の争いは禁止されている。


 これの理由としては、冒険者同士の争いを動画で撮影し、アフィリエイト狙いのまとめブログが悪意を持って記事を作成、炎上させる行為に利用されるのを防ぐためだ。


 しかし、この騒動はしばらくした所で変化が訪れる。


「ノイズ? どういうことだ!?」


 しばらく画面を見て様子を見ていたダンジョン神は、唐突に画面に砂嵐が出てきたことに違和感を持った。


 砂嵐が出て数秒後、画面は真っ黒になり、「モニターエラー、該当箇所のカメラを確認してください」というエラー表示がされる。



 開かずの部屋に到着し、青凪が部屋を開こうとドアに接触するも、何も起こらない。


 そこから次の手段を考えようとした矢先、別の冒険者一行が乱入してきた。数十人規模なのだが、すべてが男性冒険者である。


 女性冒険者自体、レアな案件ではないが、ダンジョン神のダンジョンでは目撃事例は少ない。


「あの忍者は、まさか?」


「バカな、忍者構文の忍者がどうしてここに!?」


 何が原因なのかは知らないが、彼らは自分たちが先に開かずの部屋を開こうと手柄の横取りを考えていたのかもしれない。


 しかし、彼らと言い争いになると思われた次の瞬間には、謎のBGMが流れる中で蒼影が姿を見せる。


 BGMに関していえば、ダンジョンのスピーカーなどから流れているわけではない。冒険者の耳に直接聞こえる、というのだ。


 いわゆる脳内BGMのようなものではなく、ダンジョンのシステム的なもので流れている可能性もあるが原理は定かではない。


 姿に関しては唐突に出現したのではなく、誰もいないであろうエリアの方から足音もなく走っていたのだ。


 足音がないので、一部の冒険者は蒼影が姿を見せたことにすら気づいていない。


 察知能力のようなものもダンジョン神のダンジョンでは役に立たないので、この辺りは仕方がないのだろう。


 彼らの方は蒼影の乱入に驚くのだが、逆に裏ボスなどと勘違いして目標を青凪から蒼影へと切り替える。


 足音などでは気づかないものも多かった影響か、大抵が目視で気づく、もしくは別の冒険者の声を聞いて気付いたのが大半という。


 そして、冒険者が蒼影に挑もうとした場面で、ダンジョン神の見ていたモニターがエラーを引き起こす。


(蒼影、一体何者なんだ)


 青凪は助けてくれる蒼影に対して思う部分はあるのだが、彼は何も語らない。やはり、あの時と同じようにしゃべらないのだ。


 迂闊に語って炎上するより、自分は語らずに行動で示す、という事なのか?


 

 その後、冒険者たちは蒼影になすすべなく、まるでかませ犬かのように退場した。


 蒼影は滅多に使わないであろう種子島型のライフルでビームを撃ち、忍者刀の方はレーザーで出来た剣かのようにばっざりと冒険者を一刀両断にしていく。


 倒された冒険者たちは、悲鳴を上げることなくデータの塊となった後に砂になっていき、最終的に青凪と蒼影以外は誰もいなくなった。


 この結果を踏まえると、ある意味でもワンサイドゲームといってもいいだろう。



 それからしばらくしてモニターが復旧した時には、この状態になっていた。


 一体、彼はどのようなマジックを使ったのか?


「蒼影、目的は何なのだ?」


 ここで、ダンジョン神は蒼影に対して初めて、動揺をすることになった。


 普段は落ち着いているような彼が、初めて持った感情でもある。


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