2

ラスボスを攻略して倒すため、指輪をゲットしてちゃんと夫婦になるため・・・

そう思いながら、月日は流れていった。




7月に婚姻届を出し、月日だけが無駄に流れた。

無駄に流れて・・・9月になった。

こんなに無駄な時間を費やしているゲームは、始めてだった。





「先輩・・・。」




「どうした?またクレームか?」





アポから戻り、電話を終えた隣の席の先輩に話し掛ける。





「私、ボスに攻撃出来ず倒されてばっかりなんですけど。

しかも、レベルアップも出来てないままで・・・。」




「別にいいんじゃん?

社長がそんな感じが好きなんだろ?

あの人いかにもそういう感じじゃん。」




「それじゃあ、永遠に倒せないじゃないですか!」




「倒せなくていいんじゃん?

それで夫婦仲良いんだし。

凄い仲良いじゃん。」




「仲は良いですよ、結婚する前から!

でも、倒さない限りゲームクリア出来ないですよ!?」




「また柳川のそういうやつか!」





先輩が笑いながら、また受話器を上げたので・・・私も仕事に戻った。





ラスボスを倒せないままで、それどころか1撃も攻撃出来ていない。

1撃も、たった1撃も。

ラスボスは私に攻撃をさせることなく、いつも私が倒されて終わっている。





「ラスボス、強すぎ・・・。」





小さな声で呟き、デスクに項垂れた。





お昼休憩、今日は時間がなかったので外には出なかった。

オフィスビル近くのお店でカレーライスを買い、会社の休憩スペースへ。




その空いている席に何気なく座った後、気付いた。

私を恨んでいる女の人達のグループが、すぐ近くに座っている。




今さら席を移動する方が変だとは分かるので、そのままカレーライスの容器の蓋を開けた。

食べ始めて、しばらくすると・・・。





「柳川さん、カレーなんて家で作れるんだから会社で食べないでよ。カレー臭い。」





私を恨んでいる女の人の1人にそう言われ、その女の人達のグループがクスクスと笑っている。





「ボス、あんまりカレー作ってくれないんですよね。」




「・・・社長がご飯作ってるの?」




「そうですね、私料理しないので!

料理しなくても食べられる物しか食べないんですよね。」




「・・・じゃあ、柳川さんが他の家事してるの?」




「部屋の片付けくらいですね。

何も散らかってないですけど、少し整えるくらい。

あとは、食器洗ったりもします。」





私がそう答えると、女の人達同士で顔を見合せ・・・自分達のお昼ご飯を持って、私の周りに移動してきた。





「社内みんな知ってるけどさ、付き合ってなかったって本当なの?」




「そうですね。」




「社長が朝礼で訂正してたけど、セフレもしばらくいないって言ってたし・・・。」




「あの日の朝礼面白かったですよね!」




「社長も柳川さんも両思いだったって話だけど、付き合ってなかったのに・・・どうやって結婚になったの?」




「“俺のこと嫌いじゃないだろ?”って聞かれたので、“好き”って答えたら、“俺も俺も!!”って。

お互いに恋愛苦手なので、結婚になりました。」




そう答えると、女の人達がまたお互いに顔を見合せた。




「柳川さん、恋愛苦手って何?

あんなに男のこと夢中にさせるのに。」




「言い訳みたいになりますけど、私は人との距離の取り方が1つしかないんです。

1つしか知らないし、出来ません。」




飲むように食べていたカレーライス。

その最後の一口を口に入れ・・・飲んだ。




「“ガンガン近付く”っていう距離しか、私は知らないし出来ません。

私、リアルの中で生きていない人間だったので。

ゲームの中でしか、生きてこなかった人間なので。」





私の言葉に、女の人達が不思議そうな顔で見ている。




「話し掛けられたら話しましたけど、話し掛けられることもほとんどありませんでした。

学校ではずっと勉強をしてましたし、放課後はゲームしてるかゲームセンターにいました。」




「意外だね・・・。そんな見た目なのに。」




「見た目もこんなんじゃなかったです。

ゲームの中では、プレーヤーの実際の見た目は何の意味もないので。」




「そうなんだ・・・。

社長、それ知ってるの?」




「知ってます知ってます!!

結婚する前から仲良いですし!

それ知らない相手と結婚するなんて、あり得ないですから!!」




女の人達が、またお互いに顔を見合せている。




「もっと早く言えばよかったのに。」




「聞いてこないのに、自分から言っていいんですか?」




「・・・聞かなかった、確かに。

柳川さん本人には聞かずに、当時彼氏だった相手と大喧嘩してた。」




「すみませんでした・・・。」




睨まれていたのは分かっていたけど、話し掛けられてはいなかったから謝ることも出来なかった。

流石に恨まれていると分かる相手には、ガンガン近付くことは出来なかった。




やっと謝れたことに、少しスッキリもした。




「うん、なんか今日カレー食べててくれてよかった。」




女の人達が笑いながら私を見て、聞いてきた。




「指輪まだしてないの?」




それを聞かれ、私は苦笑いをする。




「ラスボスが強すぎて、私には攻略出来ないんですけど!!」




「なにそれ?」




「・・・あ!教えてください!!」




「何を?」




「下の方の話です!!

私、攻撃したことないので!!!

攻撃の仕方、詳しく教えてください!!!」




「・・・急にガンガン来るね。」




女の人達がクスクスと笑いながら、でも結構前のめりになったのは分かった。

ヒヤリングシートは持っていないけど、スーツのポケットに入れておいたメモ帳とボールペンを取り出す。




ボールペンを1回、回し・・・メモ帳にボールペンの先を付ける。




「ヒヤリングします!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る