第121話 いつものやつ

 小雪ちゃんによるバトロワ開催宣言が終わり、ようやくひと段落ついた。ルールに関してはまあ、許容範囲内だろう。あの爺さん、バトロワ開催が不可避と判断するや変にゴネずにルールに干渉する方向に素早く舵を切るとは伊達に年取ってないな。俺がバトロワに参加すると思ったんだろう。参加者はせめて天獄杯出場選手に限定させるべきとか言ってくるあたり、生徒たちの事をちゃんと考えてはいるんだろうな。関西の婆とは大違いだぜ。


 俺にとってその発言はむしろ都合が良かったので、苦虫を噛み潰したような顔して承諾してやったが。俺が言ったら裏があると勘ぐられる事も、バトロワに否定的な爺さんが言ったのなら問題ない。これで万魔央はバトロワに参加しないと誰もが思うだろう。お返しに生徒の天獄殿に拘束と外部との連絡、接触不可にして嫌がらせした風にもみせたし、おそらく大丈夫だろう。


 俺が参加出来なくなったと考えて多少留飲が下がったのか、大雑把にルールを把握した後に他の校長と一緒に大人しく出て行ったが、俺はバトロワに参加しない部外者だから外出できるし誰にでも接触できるわけだが、その辺考えなかったんだろうか?

いや、俺が天獄殿に泊まってる事を知らないのか、それを加味した上で俺を参加させない方が重要だと判断したのか、まあどちらでもいい。俺だってバトロワ前に織田遥を始末するとか一服盛るなんてつまらない事をするつもりはない。あいつには勝利を掴む瞬間に盛大にこけてもらう予定だからな。開始と同時に脱落させるのも面白そうだけど、


 小雪ちゃんが願いを叶えるなんて頼んでもない事を言ったせいで、みんなもやる気が漲ってるだろうからある程度数が減るまで手出しは控えるべきだろうな。もし織田遥が途中で負けたら、口だけの糞雑魚ナメクジだったというだけだ。その時は…大言壮語のツケは織田家に払ってもらうとしよう。


 とりあえず正規の手段で俺もバトロワに参加する為に話をつけないとだが…問題はあーちゃんだよなぁ。あの意味不明な俺発見センサーを掻い潜れるのか?こればかりはやってみるしかないだろう。多分大丈夫だと思うけど。バトロワ終わるまでバレなきゃいいだけなんだし。


「あの、おに…魔央さま」


 ふむむとバトロワについて考えていると、俺を呼ぶ遠慮がちな声が聞こえた。


「ん?なに?」


 誰かと思ったらブラコンモンスターじゃないか。一体どうしたんだ。この短時間に一体どんな心境の変化が?


「あのね、わたし、おに…魔央さまと紗夜ちゃんに謝りたいの。紗夜ちゃんの気持ちも考えないでお兄ちゃんの事で盛り上がっちゃって…ごめんなさい」


「私もすいませんでした。お兄さんを、その…亡くされてるのに、無神経でした。私も、もしお兄ちゃんが…し、死んじゃったのに、他の子が自分のお兄ちゃんの自慢なんてしてきたら…!!」


 本当のモンスターはこっちだったかぁ…それにしても、別に悪い事をしたわけでもないのに悪そうだった所を判断して謝ってくるこの純真さが眩しすぎるぜ。俺ならあいつウゼェな関わるの止めようで終わる案件なんだが。まあ俺は紗夜ちゃんが問題ないなら正直どうでも良いんだが。ちらっと紗夜ちゃんを見ると、スッと俺の横に進み出てきた。


「謝罪されるような事ではありませんが、お受けいたします。私にとっては優しく頼れる兄でした。こうして主様と出会う切っ掛けを作って下さったわけですし」


 無神経と言うならこれでお相子ですねと、てへぺろ風に笑う紗夜ちゃん。草葉の陰で見てるか?紗夜ちゃんの兄よ…お前の妹はこんなに逞しく育っているぞ!大切な妹なら、なんでまともな情操教育をしていなかったんだ!!お陰で俺の家はけも耳メイド天国だぜ…


「そうだよね!私もおに…魔央様を紹介してくれるようなお兄ちゃんが欲しかったよ!!」


 一々言い淀んで言い換えるの止めてくれるか。俺が鬼みたいじゃないか。なんでそこまでお兄ちゃん呼びが定着してるんだ…もういいよお兄ちゃん呼びで。今みたいな呼び方されてる方が世間体が悪すぎるぜ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 紗夜ちゃんとブラコンモンスター達の交流を邪魔しない様、一声かけた後小雪ちゃんと場所を移動する。やはり紗夜ちゃんにも同年代との交流、特に友だちは必要だろう。あーちゃん達は友達とはちょっと違うしな。その点この二人なら色々と問題あるまい。仮に紗夜ちゃんに妹属性が増えた所で困る奴は居ないだろう。多分。


「それでお主、ばとるろいやるはどうするんじゃ?参加者は天獄杯の出場者のみじゃぞ」


「問題ないよ。むしろあの提案は渡りに船だった。お陰で万魔央がバトルロイヤルに参加できない大義名分が出来た。世間も万魔央が参加しないと思うだろうし、実際万魔央は参加しない。なにも問題はないよ」


「ふん。万魔央は、か」


「そう。やり方なんて幾らでもある。例えば姿隠して闇討ちとかね。まあそんな事はしないけど。正々堂々、大手を振ってバトルロイヤルに出場する。誰の目にも問題ない形で」


「ふむ…となると替え玉か?」


「まあ、小雪ちゃんには我儘に付き合ってもらったわけだし教えておくよ。たった一つの冴えたやり方ってやつをね!!でもあーちゃんに言っちゃ駄目だよ。終わった後ならバレても問題ないけど、始まる前にバレると面倒だからね」 


「当然じゃ。儂とお主だけの秘密じゃな」


「小雪ちゃんの考え通り、参加者と完璧に入れ替わる。最初は適当な奴と入れ替わろうと思ったけど、絶対バレるよね。殺すわけにもいかないし、地元に戻った後行方不明になったら大騒ぎだ。仮に神霊誓約で入れ替わりを口止めしても誤魔化しようがない。そもそも最終目的は織田遥だ。あいつが口だけじゃないなら終盤まで残る事になる。当然人数は減ってるわけだから注目されるし、戦い方なりで偽物だって間違いなくバレるでしょ」


「そうじゃの。わざわざ入れ替わる為に人となりを把握するような事はお主はせんじゃろ」


「どうでもいい奴の事なんて知ろうとするだけ時間の無駄でしょ。というわけで、入れ替わるなら対象は自ずと限定されるよね」


「そうじゃの…となると奈月か?」


「正解。あーちゃんとレナちゃんはバトロワに普通に参加するだろうし、そもそも戦闘スタイルが俺と合わない。矢車さんはあんま知らないから信用できないし。その点なっちゃんは最適なんだよね。頓珍漢な言動しても…うるさい。って言えば誤魔化せるし」


「戦ったら流石にばれると思うんじゃが」


「ダンジョン配信のお陰で、なっちゃんはまともに戦闘出来ないってのがバレてるからね。魔法使っても適当に魔道具使った事にすれば誤魔化せるし、過保護な俺が万一があった時の為に持たせてたって事にすれば問題ないでしょ。それに終盤まではこっそり行動して極力戦闘は避ける方針だし、戦闘は魔法のごり押しで近接戦闘はしない。なっちゃんなら口裏合わせるのも簡単だし、俺が派手にやらかしてもカバーしてくれるだけの度胸と機転がある。大体一緒にいるから何かあってもフォロー出来るし。今回の件ではうってつけなんだよ」


「奈月なら問題ないじゃろうが…高くつきそうじゃの」


「そこが問題なんだよねー。まあ頼むだけ頼んでみて、条件に折り合いがつかないならレナちゃんに頼んで、それも駄目ならあーちゃんに勝ってもらうしかないね。最悪の場合、シマちゃんで丸ごと殲滅かな」

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