第120話 1/124

 万魔のバトルロイヤル開催宣言後、会場内で状況についていけず置いてけぼりにされていた天獄杯代表選手たちは、担当者が来るまで待機しているようにと、入場行進前にいた待機場に集められていた。ほぼ全員が、何が何やら分からない、でも何か凄い事になったと、近くにいる者同士で先ほどの出来事について話し合う中、現在の状況を作り出した原因である織田遥に対しては、珍獣よろしく遠巻きに眺めながら小声で話す生徒はいれども話しかける生徒は皆無であり、当の本人も好き放題やり切ってスッキリしたのか、満足げに無言で佇んでいた。実際は自分の事について話している生徒たちの話に聞き耳を立てて内心ニマニマしているだけなのだが。


 会話を止めるような人物もおらず、皆が好き勝手に話し合う状況はしかし、扉が開き入って来た人物によって終わりを告げた。無常鏡花、万生教万魔十傑衆筆頭の登場である。


「そう畏まらなくていい、楽にしてくれて構わない。一応自己紹介をしておこう。無常鏡花だ。今回のバトルロイヤルの実行責任者を万魔様より仰せつかっている。ここに集まって貰ったのは、何も説明せずにいきなり殺し合えといった所で納得出来ない者がいるだろうからだ。なので答えられる範囲であればこの場に限り質問を受け付ける。が…その前に、このバトルロイヤルを辞退したい者がいれば出て行ってもらって構わない。ただし後で気が変わったというのは許可しない。残った以上は何があろうと参加してもらうし、出て行ったらどんな理由があっても参加はさせない。5分やる。今すぐ決断しろ」


「ちょっといいか?」


「辞退するなら私が入って来た扉から出てくれて構わないが」


「違う。俺は辞退する気はねえよ。ただ、ホテルに妹が一人で残ってるんだよ。あんた言ってただろ?外出や外部との連絡は許可しないって。それは今この場でも駄目なのか?一言、終わるまで帰れないって伝えるだけで良いんだが」


 男の発言にそれなりの数の生徒が頷く。こんな事になるなど誰もが予想していない。それこそ神でもない限り予想できる存在などいないだろう。せめて家族に一言伝える位は許されるのではないか。そう思うのは当然である。


「ふむ…そうだな。ならば貴様の名前と相手の連絡先を教えろ。万生教が責任を持って、貴様がバトルロイヤルに参加する事を伝えよう。他の生徒も連絡したい者がいるなら、後で取りまとめるのでその時教えるように」


「直接話したかったが…連絡してくれるだけマシか。分かった、それでいい」


「あ、あの…下着とかパジャマを持ってきてないんですけど、それを宿から取り寄せるとかは…」


「却下だ。貴様も探索者の端くれなら1日2日我慢しろ…と言いたい所だが、衣食住については常識の範囲内で無償で提供する事になっているから安心しろ。ただし、枕が変わると寝られない等と寝言を言うような奴は知らん。勝手に寝不足になるか辞退しろ。最終確認だ。5分経ったが辞退する者はいないな?これ以降はどんな理由があろうと辞退は許さん。外部との連絡や接触も許可しない。…いいだろう。ここにいる全員のバトルロイヤル参加を承認する」


「さて、バトルロイヤルについてだが、現在決まっている事を教えておく。明後日の朝9時よりバトルロイヤル開始。終了時間は勝者が決まるまでだ。場所はパンデモランドの疑似ダンジョン探索アトラクション・天獄郷解放で行う」


「ちょっといいですの?」


「なんだ?」


「何故わざわざパンデモランドで行うんですの?バトルロイヤルでしたら天獄杯の会場でも可能だと思いますわ」


「バトルロイヤルに適した場を用意できるのが現状そこしかないからだ。お前は天獄郷で一般人を巻き込んでバトルロイヤルをしろとでも言うつもりか?」


「そんな事は言ってませんわ!ただ急にパンデモランドで行うとなると予定が狂う方も大勢いらっしゃると思っただけですわ」


「そんな事は知らん。文句はバトルロイヤルを提唱した織田遥に言え。そいつが言い出さなければ実現しなかった事だ。結果として万魔様が承諾され、パンデモランドしか候補地がなかっただけの事。それともお前が今すぐ候補地を用意できるのか?」


「…出来ませんわ。話の腰を折って申し訳ありませんでしたわ」


「話を戻すぞ。バトルロイヤルの勝者は一人のみだ。複数人が勝者となる事はない。そして勝者の定義だが、勝者のアナウンスをされた後、ドン勝!!と宣言する事を条件とする。名前を呼ばれる前に気絶したり、ドン勝と言えなかった場合は勝利条件不履行で勝者なしとなるから注意しろ。当然相打ちの場合も勝者なしだ」


「少しいいでしょうか。ドン勝とは何でしょうか?」


「私も知らん。だがバトルロイヤルの勝者は皆そう言うらしいぞ」


(そうなの?)

(知らないよ。そもそもバトルロイヤルなんてした事ないし)

(ドン勝?カツ丼の間違いじゃ?)

(カツ丼食って勝つどん!!ってか?)

(サイッテー!!)


「バトルロイヤルはパンデモランドを1日貸し切って行う事になる。その為制限時間を設けてある。12時間だ。少し具体的に言うと時間経過と共に戦闘可能区域が減少していく形だな。12時間後には全ての戦闘可能区域が消滅する。その時点で勝者が決まっていない場合は当然ながら勝者なしだ。まあそうはならんだろうがな。ちなみに負けた奴は参加賞で終了までパンデモランドで遊び放題との事だ。良かったな。雑魚ほど誰もいないパンデモランドを堪能出来るという事だ。己の未熟さと弱さを噛みしめて、遊べない子どもの泣き声をBGMに思う存分遊ぶと良い」


 なんだその罰ゲーム。パンデモランドで遊び放題はご褒美だけど、そんな事言われてしまったら素直に楽しめないじゃないか。なんてことを言ってくれたんだ!!とはとてもじゃないが怖くて言えないが、誰もがそう思った。


「後はそうだな…万魔様が現在所持しているアイテムは全て使ってよいとおっしゃっておられたが、少し訂正がある。魔道具や魔法兵器、武器防具は好きに使って問題ない。だが殺人は許可しない。殺すつもりはなかったなどという言い訳は一切通用しない。逆に言えば殺さなければ毒ガスだろうが何だろうが好きに使って構わないという事だ。そしてバトルロイヤルに持ち込めるのは、正確には現在所有しているアイテムと天獄殿で手に入れたアイテムだ。持ち物検査など野暮な事はせん。取捨選択の判断も探索者にとっては必要な事だからな。とりあえずはこのくらいだ。何か質問がある奴はいるか?なければ今から貴様たちを天獄殿に連れて行く」


「はい!勝者の願いを万魔様が叶えて下さるそうですけど、どういった範囲までOKなんですか?もう少し具体的に知りたいです!」


「そうだな…俗物的な願い事ならまず不可能はないだろう。金、土地、権力、地位、名誉、復讐、そういったものならまず問題ない。逆に誰それとの仲を取り持って欲しいといった、他者が絡んでくる望みは相手次第だろうな。相手が万生教徒ならば問題ないだろうが」


「それは無常さんもでしょうか!」


 おいおいこいつ死んだわ。誰もがそう思った。


「万魔様が願われるなら、何であろうと私達は全力で叶えるのみだ」


 なん…だと…!?つまり万生教の綺麗なお姉さんたちと良い感じになれるという事か!?しかもこの反応、もしかしたらハーレムもいけるんじゃないのかこれは!!!


 万魔様が動くという事は万生教も動くという事。これはもう日本を手に入れたも同然なのでは?不可能なんて実質ないでしょ。万魔様と万生教徒と天獄郷を相手にして一歩も引かずにどうこう出来る存在なんて日本にいるの?


 参加者全員が万魔が願いを叶える意味を共有したこの瞬間、先輩後輩友達関係なく、全ての参加者が自分以外をライバルと認識した。このバトルロイヤルに情けなど不要。いかに相手を騙し、唆し、利用して使い捨てるか。漁夫の利を得る為に、なるべく戦闘を避けライバル同士を喰い合わせるにはどうすべきか。なにより最後の勝者としてドン勝する為に己のすべきことはなにか。


 万魔が願いを叶えるというたった一つのドラ〇ンボールを巡り、若き探索者達の血で血を洗う欲望に塗れた戦いの火蓋が切って落とされたのだ。

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