第118話 こーーすんの!! 

 早く小雪ちゃんの所に戻らないと、このお祭り騒ぎがなかった事にされかねない。紗夜ちゃんを連れて元来た道を急いで戻る。小雪ちゃんの部屋の入り口前には黒巫女さんが2名、門兵の様に立っていた。


「お早うございます。仕事中すいませんが、万魔は中にいますか?」


「魔央様、お早うございます。はい、万魔様は中におられます。現在警戒態勢中につき、このような形での挨拶をお許しください」


「いえいえ、お仕事ご苦労様です。中に入ってもいいですか?」


「勿論です。魔央様の前に塞がれる場所など、天獄郷には存在しておりません。どうぞお入りください」


「有難うございます。それでは失礼しますね」


 警備している黒巫女さんに挨拶して扉をあけ放つ。こう言うのは最初が肝心。勢いで押し切るぜ!!


「万魔!話は聞いていたな!この天獄杯は俺が預かった!!」


 バーン!と効果音と集中線が入りそうな勢いで扉を開けて中に入り、主導権を握るべく先制のパンチをお見舞いする。が、しかし。部屋の中にいるのは万魔とブラコンシスターズだけではなかった。誰よこいつら。ジジババどもがこぞって一体なにしてんだ?


「ん?おお魔央か。戻ってきたのか。どうしたんじゃ?藪から棒に天獄杯を預かるなどと言い出して」


「ああ、その事なんだけど、動いてないなら問題ないか。ところでこの人達は?」


「こやつらは探学の校長じゃ。織田遥の言動をお主も見たじゃろ?あれで泡を食ってここに来よってな」


 なるほど。確かに見知った顔がいるな。関東と…どこだっけ、北陸だっけ?の校長か。あれ?無常さんまでいるじゃん。関東探学の引率とかしてるんじゃないの?まあいいか、とりあえず小雪ちゃん以外に用はない。


「俺もその件でここに来たんだよね。どうするかまだ決めてないでしょ?」


「それを今話そうとしておったところじゃ」


 よしよし、ナイスタイミングだったようだな。


「万魔様。困りますぞ。今は早急に織田遥の処罰と天獄杯の進行をせねばならぬのに。このような若造にかまけている暇はありませんぞ」


 なんだこのヤのつく職業についてそうな人相の悪い爺は。こんなのが探学の校長ってまじ?まあ探索者なんて力が一番重要な野蛮な業界だが。


「いいじゃないか。万魔様の後継者がわざわざ案を持ってきてくれたんだろ?聞いてみる価値はあるんじゃないかい?面白い事になりそうだしね」


 こっちの婆さんは話が分かりそうだが滅茶苦茶胡散臭いな。この手の婆さんは場を引っ掻き回した上で自分のペースに持ち込んで好き勝手してきそうだし。まあ今回は既に結論が出てるから問題ないだろう。


「まだ結論が出てないなら話は早い。今年の天獄杯は織田遥が言った通りバトルロイヤル形式で取り行ってもらう。これは決定事項だ」


「いきなり来て何を言っておる!貴様、歴史ある天獄杯に泥を塗るつもりか!?」


 まあ当然の反応だな。だけど俺は天獄杯つまんないし。面白そうなイベントあればそっち応援したくなるじゃん。紅白見るよりガキ使見たいじゃん?


「万魔はどうなんだ?俺の意見に賛成か反対か」


「そうじゃの、儂としてはどちらでもいいんじゃが。天獄杯は探索者協会のイベントじゃから儂は大して関わっておらんしの」


「万魔は探恊の名誉理事長なんだろ?万魔が問題ないなら問題ない。万魔の名の下にバトルロイヤル開催宣言だ。でかい花火を打ち上げてくれ。盛大にな」


「なぜそんな事をせねばならん!織田遥を処罰した上で通常の天獄杯の進行に戻すべきだろう!こんな事が罷り通れば、ルールなど必要ないではないか!天獄杯が積み上げてきた信頼と実績が地に堕ちるわ!」


 他の校長連中は様子見か?婆さんはにやにや笑ってるし、関東の校長は遠い目をしてるな。糸目は視線をこっちに向けようとしない。という事はこの爺を何とかすればどうにでもなるな。物理的排除は最終手段で良いだろう。


「なぜそんな事をするって、そっちの方が面白そうだからに決まってんだろ」


「!!そ、そんな理由で天獄杯を根底から覆すようなイベントが出来るか!!」


「大丈夫だ問題ない。どういった形で行うかのプランはすでに頭の中にある。問題は場所だが…まあこれは聞いてみないと分からないがどうにかなるだろう」


「そういう問題ではない!探学生の中にはこの天獄杯に出場する為に切磋琢磨してきた者もおる。年に一度の天獄杯を楽しみにしている人たちもおる!何より99年に渡り築き上げてきた天獄杯という有望な若手探索者達の登竜門を蔑ろにすることなどできん!!そもそも探学生ですらない、コネで出場枠を奪い取った小娘の言い分など断じて認めるわけにはいかん!!」


「あの子の入学は私が認めたし、出場枠も実力で勝ち取ったんだけどねぇ。まあコネを利用したってのは事実だけどさ」


「確かに織田遥の取った奇行は褒められたものではない。が、言い分には一理あるだろう?探索者同士、おままごとよろしく戦ってなんになる?ヨーイドンでスタートして、仲良くお手手繋いでゴールでもするつもりか?探索者に求められるのは力であり、臨機応変な対応力だ。その点バトルロイヤルなら申し分ない。夜討ち朝駆け不意打ち抜け駆け騙し討ち上等。あらゆる手段をもって敵を排除して勝ち残る。仲良しこよしのチャンバラごっこなどでは得られない、実戦に限りなく近い場で、理不尽と緊張感と経験が得られる。死なずにそれらを味わえるのは探索者にとって幸せな事だと思わないか?」


「貴様の言っている事に一理あるのは認めよう。だが天獄杯は若い探索者達の教育と啓蒙も兼ねておる。天獄杯は万人から見て清廉なイベントでなければならん!!貴様がバトルロイヤルをしたいなら、わざわざ天獄杯でする必要もないだろう。新しく開催すればいいだけだ」


 その通りだ爺さん、あんたは何も間違ったことは言っちゃいない。この上なく正論だ。だがそれでは時間が掛かる。俺は今すぐしたいんだ。鉄は熱いうちに打てって言うだろ。この熱狂が明日まで続くと俺は思わない。俺も面倒臭さが勝ってやる気が失せるだろう。


「そうか。あんたの言い分は分かる。言ってる事は非常に正しい。ぐうの音も出ない正論だ。だけど俺は今すぐバトルロイヤルがしたい。どうしてもしたい。絶対にしたい。最初に言ったよな?これは決定事項だと。万魔にも確認をした、問題ないと。自分は大して関わっていないとすら言っていた。ならばどこに問題がある?ここは天獄郷だ。万魔の意向が絶対で、万魔の後継者の意思が何よりも優先される。そういう場所だ。そんなに天獄杯がしたいなら名前を変えて余所でやれ。99回だったか?知名度はもう十分にあるだろう。天獄郷で開催する理由もない。地域活性化と探索者の啓蒙活動も兼ねて、来年から各校で持ち回りで開催でもしていろ。探学の未熟な生徒達が直に上澄みの戦いを見れるんだ。探学生の事を考えているならむしろそうすべきだろ」


「そんな事が急に出来るわけないだろう!!どれだけの人間が天獄杯の為に動いていいると思っている!!」


「知るかよ。天獄杯は清廉な大会なんだろ?ならそれに関わってる連中も清廉で立派な人物であるべきだ。探学生の為なら笑って泥水を啜ってくれるに決まっている。そうでないなら俺がそいつらと物理的にOHANASHIしてやるよ。知ってるか?探索者の世界は自己責任なんだぜ。ま、織田遥なんて劇毒を懐に入れたお前らが悪い。演説する前に制止しなかったスタッフが悪い。万魔主催のイベントだったら列から離れた時点で黒巫女が速攻排除してたろうよ。恨むならコネで入学と参加を許可した関西探学を恨め。俺も織田遥があんな行動取らなきゃ、そもそも関与しなかっただろうし」


 顔を真っ赤にしてプルプル震えている爺さんと笑いを堪えている婆が対照的すぎる。この婆は織田遥を途中入学させるくらいだし、相当イカれてるのは間違いない。織田の人間で、天獄杯前にいきなり入学させろなんて言ってくるなんてトラブルになるのは分かり切ってるし、素行調査くらいはするだろう。まともな奴なら間違いなく入学させねえよ。見た目からして揉め事の温床じゃねえか。


「心配しなくても、あんたが思ってる以上に世間は天獄杯に興味も関心もねえよ。中止になった所でふーんで終わるし、むしろ内容がルール無用のバトルロイヤルに変更になった事が知れたら、天獄杯に興味なかった奴らも見てみようかな?ってなるだろうし、俄然注目の的だって!なんなら歴代最強視聴率叩き出して、利権に塗れた屑共も手の平返してホクホク顔かもよ?」


「そ…そんな事を心配しておるのではないわ!!!」


 やれやれ、頑固な爺さんだな。もうこの場で俺を倒すくらいしかバトルロイヤルを止める方法はないんだが。なまじ責任感と真っ当なプライドがある分、この理不尽な状況に順応できていないのだろう、ご愁傷様だな。そこの婆を見て見ろよ。無責任にげらげら笑ってるぞ。常識持ってると苦労するよな。分かるぜ、俺もそうだからさ。よし、あーちゃんを長々と待たせるのも悪い。観客も放置してると冷めてくるだろうし、さっさと概要を決めて小雪ちゃんの開幕宣言だ!!

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