第117話 どどどどどーすんの どーーすんの?? 

「会場にお集りの皆さん、遠路はるばるようこそお越しくださいましたわ。私の名前は織田遥。そう、言わずもがな、関西禁忌領域守護織田家当主・織田信道の娘ですわ!突然ではありますが、少し私のお話に付き合って頂きたいと思いますわ!!」


 選手宣誓が終わったと思ったら、また選手が壇上に上がって来たんだが。しかもあのツインドリルが。やはり奴が織田で間違いなかったか。なんで二人も選手宣誓するのか意味が分からんが…あれか、忖度ってやつか?まあどうでも良いけど早く終わんねえかな。


「私がこの場に立った理由、それは日本の未来を憂いての事ですわ!今年に入って日本にとって重大な事件が数多く起こりましたわ!ワンダラーエンカウント、天獄郷襲撃事件…中でも特に衝撃的だったのは、そう、無血粛清…北条の決闘騒動ですわ!」


 それ全部俺がやった事なんだがな。まあ1:2で最強仮面さんが泥被ってるから問題ないだろ。うーん、あーちゃん達にちょっかい掛けるクソ野郎どもが一向に現れないし、このまま別人扱いされてた方がいいのかな?汚れ役を最強仮面が引き受ける感じで…ん?万魔央の方が汚れ役やってないか?


「万魔央さん…万魔様の後継者ですわね。彼がその肩書と共に現れたのは今年の4月ですわ。何故このタイミングで…この事を知った誰もがそう思ったに違いありませんわ!!ですが私にはすぐに分かりましたわ。彼がなぜ超特特待生として入学してまで関東探学に籍を置いたのかが」


 なん…だと…俺があーちゃんを心配のあまり入学した事がバレているだと!?レナちゃんさえ気づかなかった事(※今は奈っちゃんも察しています)だぞ!俺と面識すらないこの女が察するなんて…こいつは侮れないぞ。


「ワンダラーエンカウントで一躍脚光を浴び、そして天獄殿を襲撃した最強仮面と名乗る謎の人物と、時を同じくして現れた万魔央さん。皆さんは不思議に思いませんこと?圧倒的な実力を持つこの二人、それこそ過去現在含めて最強クラスの実力と言っても過言ではありませんわ!なぜそんな存在が同時に日本に現れたか、皆さんはこの事について考えたことがありますか?」


 おいおいまじか。同一人物だと見抜かれたのか?いやまあ着てる服は同じだしバレる要素はあるっちゃあるが…いやでもレナちゃんの時の映像結構ぼやけてたし、遠目だったし肉弾戦してたし、黒服くらいしか共通点ないだろ。それで同一人物はいくらなんでも無理があるだろ。あるよな?


「最初は私も気付きませんでした。なぜ万魔央さんが関東探学に入学したのかを。ですが北条との決闘の一部始終を知った事で気づきました。そう…最強仮面さん、いえ最強仮面様は憂国の烈士!万魔央を誅するべく表舞台に登場したのですわ!!」


 な…なんだってー!!!驚愕の声と共に会場がざわつきで埋め尽くされる。当然俺もその一人だ。気分は正に宇宙猫である。一方、万魔様は腹を抱えて笑い転げていた。


「おそらく最強仮面様と万魔央は万魔様の兄弟弟子なのですわ。ですが万魔様は万魔央を自身の後継者に指名した。一度は大人しく身を引いた最強仮面様ですが、きっとどこかのタイミングで気づいたのでしょう。万魔央は万魔様の後継者としての責務を果たす気がないと。万魔様の後継者としての責務…そう、禁忌領域の解放ですわ!」


 こいつ…妄想をさも事実であるかのように語ってやがる…周りの連中もトンデモ話を固唾をのんで聞いてやがる…確かにフィクションとして面白そうだから聞き入るのも分かるが。性質が悪いのは結論だけ当たっているという事だ。偏見の沼地と誤解の密林を盲目的に強行突破して、真実の城門の前に辿り着いたレンネン何某の御同輩かな?でもまあこれは都合が良いな。このトンデモ論で俺と最強仮面を同一視する奴はまずいなくなるだろう。


「万魔央を誅するべく、自身こそが万魔の後継者として相応しいことの証明として、ワンダラーエンカウントに遭った少女を救ってみせ、天獄殿を攻略する事で実力を証明したにも関わらず、万魔様は万魔央を後継者にする考えを変える事はなかったのですわ。ですがその一連の行動を見て万魔央は心胆寒からしめたのでしょう。このままではいずれ万魔様の後継者から追い落とされかねないと。だからこそ、表に出てきたのです。自ら衆目に身を晒し、市井に混じって暮らす事で最強仮面様からの襲撃を封じたのですわ」


 きみ、話を作る才能あるね。カク〇ムに投稿してみない?そうだね。タイトルは『腹黒弟弟子に誑かされたけもっ娘師匠に破門にされた件について~それでも俺は諦めない。必ず誤解を解いて師匠とよりを戻してみせる~』とか良いんじゃない?


「自身の身の安全を確保した上で万魔央が行った事。それは皆さんもご存じですからここで深くは語りませんわ。最強仮面様は天獄殿襲撃で深手を負った事で身動きが取れず、結果として万魔央が万魔様の後継者として地位を確立してしまった。ですがそれは些細な事ですわ」


 些細な事なの!?ならなんでそんな話を長々と語ったの?周りの人たちもエッって顔してるよ?


「間違いは正せば良いのですわ。人は誰しも間違うもの。そして例え罪を犯したとしても、それを償う行為に遅いという事はないのですわ。ましてや万魔央はまだ学生。心を入れ替え、正道に立ち戻る余地は十分に残されていますわ!そして最強仮面様が動けない今、この私、織田遥がその志を継いで万魔央を更生させてみせますわ!最強仮面様と万魔央、そしてこの私が手を取り合いさえすれば、禁忌領域から日本を解放する事も決して夢物語ではありませんわ!!!」


 あまりにも大言壮語。万魔のお膝元、天獄郷にて、万魔のみが成し得た偉業である禁忌領域を、それも日本を解放してのけるという、あまりにも荒唐無稽な絵空事。だが日本における最大最高の悲願。それを成せると自信満々に言ってのけた織田遥の姿は、それを見る者にある種の憧憬を、尊崇を抱かせるに十分なものであった。


「とはいえ、万魔央が表に出てきた時にその実力を把握されていなかったように、私がここで何を言ったところで弱者の戯言と一蹴されるのがオチですわ。ですから、私の実力を証明いたしますわ。


 手始めにそうですわね…ここにいる天獄杯代表選手全員と私でバトルロイヤルですわ!!私、常々思っていましたの。なぜ人同士で争わなければならないのか?と。私達は探索者であり、探索者が相手にするのはモンスターですわ。モンスターが正々堂々と一対一を挑んできますの?ご丁寧に数を合わせて戦ってくれますの?ダンジョンでは常在戦場、いつ何時モンスターが襲ってくるか分からず、そしてどんな能力を持っているかも分かりませんわ。探索者に求められるもの、それは強さと機転ですわ。モンスターを倒せる力、弱点を見抜く眼力、窮地を脱する機転、チャンスを活かす瞬発力、そしてなにより生を諦めない執念と、いざとなったら死中に活を見出し全てを投げ出す覚悟。


 北条の決闘で唯一収穫があるとすればこれですわ。北条の方々は私達に探索者とはどういったものかを思い出させてくれましたわ。思い知らせてくれましたわ。不可能に挑んでこそ、命を懸けて未来を掴むのが探索者であると。北条の身を切った献身を私は重く受け止めましたわ。故に、今こそが変革の時!私達は変わるべき、いえ、変わらなければならないのですわ!先人の轢いたレールの上を進むだけの見せかけの平穏ではなく、戦わなければ勝ち取れない、真なる栄光を掴む為に!!


 今ここで!まずは私達から始めるべきですわ!!新たな時代の幕開けを!私達若者こそが!!次代を担う主役であると!!そしてこの織田遥が皆の先頭に立ち、勝利に導く女神であると、それに相応しい存在であると証明する為に!!この天獄杯はバトルロイヤルルールで掛かってこいですわー!!!!」


「「「「ウォォォォオオオォォォオオォォォオオオォォオオオオ!!!!!」」」」


 織田遥の熱気に当てられた天獄ドームにいる人たちの、会場中から怒号にも似た叫びと遥コール。一仕事やってのけたぜと満面の笑みで、手を振り満面の笑顔の織田遥。さながら小雪ちゃんがアイドルコンサートしたらこうなるんじゃないかといったレベルの盛り上がりっぷりだ。この熱狂の中で宇宙猫と化しているのは俺の事を知っている俺とあーちゃん達くらいだろう。


 本来なら即介入してぶっ殺すなりシバいた方が良いんだろうが…この一から十まで捏造と妄想で組みあがった熱狂の行きつく先が一体どうなるのか、俄然興味が沸いてきたぞ。ここで織田遥を否定するのは容易いが、それでは全く面白くない。これはもう行きつくところまで行ってもらうべきだろう。そして幸せの絶頂から不幸のどん底に突き落としてこそ留飲も下がり、そこから這い上がる事が出来たなら本物という事だ。

 

 良いだろう。織田遥、俺は心を鬼にしてお前の覚悟を試してやろうじゃないか!そうと決まれば今すぐ小雪ちゃんの所に戻らなければ!!今年の天獄杯は情け無用のバトルロワイヤルだ!!ついでに特等席で観戦する為に、万一にも織田遥が勝ち切らない様に俺もこっそり参加しないとな!ヒャッハー!!滅茶苦茶テンション上がって来たぜええええええ!!万魔の後継者のコネと実力、思う存分味わうが良い!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る