黒ノ断章

「お主が天月隷人か」


「うおおおおお!まじで獣人じゃん!!てことはやっぱエルフやドワーフもどっかにいるのか!?やばい滅茶苦茶テンション上がって来た!!」


「おい、貴様!万魔様が直々にお尋ねになっているのに無視するとは何事か!!」


「しかも呼び方がお主とか、ガチでのじゃロリ系なのか!?しかも白毛の狐っ子とかやべえな!!金毛九尾じゃないのは少し残念だけどこれはこれで全然ありだな!!」


「おい貴様!いい加減にしろ!!万魔様の前でその暴言、今すぐ刀の錆にしてやろうか!!」


「んだようっせえな。万魔の金魚の糞が粋がってんじゃねえよ。万魔が用があるって言うから、こうしてわざわざ来てやったんだぞ?お前こそ客に対する礼儀を弁えろ」


「よい。礼儀を知らぬ子どものする事じゃ。一々目くじらを立てるでない」


「…はっ!」


「ったく、言われて引き下がるなら最初から噛みつくなよ。後俺は礼儀を知らないわけじゃないからな。お前みたいな噛みつくだけの雑魚に示す礼儀なんて持ってないだけだから」


「ほう…そやつはそれでも万生教で十指に入る腕の持ち主なのだがの。それをお主は雑魚と呼ぶのか?」


「どこに所属してようが、雑魚は雑魚だろ。ったく、気分良いのが台無しだわ…まあいいや、こんな奴はどうでもいいんだよ。さて、万魔様がお呼びという事で、わざわざ天獄郷くんだりまで足を運んだわけですが、ご用件を伺いましょうか」


「そうじゃな。お主は知らんかもしれんが、儂は探恊の終身名誉会長をやっておる。お飾りの様なものじゃが、現場で手に負えないような件に関しては儂が手を貸す事もあるのじゃ。そんな儂にお主の事が耳に入って来ての。中々どうして、個人の動向が儂の耳に入ってくるのは珍しいのじゃよ。特にお主の様な童なら尚更にの」


「そうですか。どんな話を聞いたのかは興味が沸きますけど、こうして直接会ってみた感想はどうでしょうか?」


「ふむ。今のところは自身の力を過剰に過信しておる生意気な童にしか見えんの」


「僕は万魔様が本物のけもっ娘だと知れて滅茶苦茶テンション上がりましたよ。念の為聞きますけど、それ付け耳や付け尻尾じゃなくて本物ですよね?」


「儂に向かってそのような口を利く奴など、ここ最近はとんと見かけんから新鮮に感じるの。お主は儂が怖くないのか?」


「怖い?可愛いらしいけもっ娘に恐怖を抱くとかなんの冗談ですか?ロリ婆というのもある意味ポイント高いですし。まあ獣人は可愛くてもふもふできればOKなので問題はないですが」


「ふむ…儂にここまでふざけた言葉をぬかした輩はお主が初めてじゃ。これは余程のうつけかそれとも大物か、判断に迷うのぉ。その歳の童にしては受け答えははっきりしておるし、動じる様子もない。お主自身に興味が出てきたぞ」


「そうですか。僕も万魔様には興味津々ですよ。他にけもっ娘っているんですか?猫耳とか犬耳とか万魔様に似た獣人の事です」


「儂と似たような者か…少なくとも儂は出会った事はないの。だんじょんに行けば似たような輩は大勢おるが」


「モンスターは流石に専門外なので…可愛くないですし。しかしそうですか…万魔様以外にけもっ娘は居ないんですか。むぅ…これは俺のハーレム計画にけもっ娘参入は絶望的…いや万魔様が…でもなぁ。ロリ婆枠が獣人ってのはどうなんだ?普通獣人はもふもふ癒し枠だろ…この際万魔様で妥協するか?そもそも他に獣人が居ないなら選択肢はあってないようなものだし…可愛いのは間違いない。でもそれだと男の娘もOKって事に…」


「…儂も今までいろいろな者と会ってきたが、お主はその中でも特別おかしいの。儂の耳まで届いたのも納得がいくイカレ具合じゃ」


「そうですか?誉め言葉として受け取っておきますね。それでどうですか?そちらの要件は済みましたか?」


「そもそもお主を呼んだのは、探恊が匙を投げる程の輩がどのような者か見て見たかったからじゃ。お灸を据えるよう頼まれてもおるがの」


「別におかしなことはしてないんですけどね。こちらから喧嘩を売ったりした事ないですし。むしろこんな子どもに喧嘩を売ってくる探索者を制御できない探恊に非があると思いますけど」


「ふむ。心当たりは一つもないと?」


「絡んで来た探索者を片っ端からボコボコにしたり、こんな雑魚がA級ダンジョン行けるのになんで僕が行けないのか探恊に抗議したくらいですかね?そもそもこんな子どもに絡んで来る方が悪いですし、返り討ちにされてもそれは自業自得です。そしてそんな雑魚より強い僕が高ランクダンジョンに入れないのもおかしいですよね?」


「お主の言う通りなら確かにそうじゃろうな」


「まあ、多少やりすぎた感はしないでもないですけど、仕方ありませんよね。だって魔法が使えるんですよ!ダンジョンがあってモンスターがいるんですよ!どこまでやれるか試してみたくなるでしょう?自分がどれだけ強いのか確かめたくもなるでしょう!!絡んでくる奴らをボコボコにして、探恊に難癖付けてたら、いずれS級探索者が釣れるんじゃないかなって期待してたんですけど、結果としては最上でした」


「…ほう」


「ま、ここまで上手く事が運ぶとは思いませんでしたけど。僕の目的はあなたですよ万魔ちゃん。呼ばれた程度で大人しく天獄郷くんだりまでほいほいやってきたのはあなたに会うためです。日本において最強の探索者。唯一禁忌領域を解放した存在。偉大な存在という事だけが独り歩きしているあなたなら、僕をどうにか出来るんじゃないかって思いましてね。正直ちょっと飽きて来てるんですよ。あまりにこの世界がイージーすぎて。ここらで一つ、先達として増長している糞餓鬼に越えられない壁というのを突き付けてもらえませんか?ああ、別に殺されても文句は言いませんよ、探索者は自己責任ですから。当然殺しても文句は言わせませんけどね!」


「糞餓鬼が…!!なんたる傲岸不遜な態度…!万魔様に向かって不敬極まる!!もう勘弁ならん…!!そんなに死にたいなら、今すぐ殺してやるわ!!」


「お前はお呼びじゃないから引っ込んでろ。雷王灰燼」


「グガァァアァアアアアアアアァアァア!!!」


「殺すなら何も言わずに無言で殺しにかかれよ雑魚が。さて、万魔様。呼び出しに応じただけの子どもを殺そうとしたこの女、ひいては万生教をどうすればいいと思います?幸いな事にここにいるのは現在僕とあなただけですので、穏便に済ます事も可能だと思いますけど」


「はぁ…いいじゃろ。お主の望みを叶えてやろう。ついてこい」


「本当ですか!流石は万魔ちゃん、話が分かる!あ、最初からクライマックスでお願いしますよ!手加減とかされたら興覚めなんでね!!」


「言われずとも本気でやってやるわい。お主の方こそ後悔するなよ」


「しませんよ。上には上がいるというのは幸せな事だと、今の僕ならそう思えますからね」

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