第83話用意


 考えても解らないものはわからない。まず本当にラダさんが犯人なのかもわからない。領主様が言っていただけだし、二人はすぐに逃げているとライトニングさんは言った。どうして二人がやったと言えるのか。もっと言うと、自分の子供が犯人だなんてアッサリ告げるのも妙な感じがする。

「ライトニングさんは領主家全員に会って、

 記憶を知ってるんだから、

 犯人がいたらわかる…よね?」


「どうでしょう。正しくは、

 判るのは本人の知覚であり曖昧たる記憶です。

 魔女がユイマの記憶を探るのと同じ事です。

 見聞きしていない事については、

 正確にわかるわけではありません。」


「計画してたなら、わかる?」


「考えているだけでは、わかりません。

 会話したり何事か実行に移していたなら、

 その記憶はわかります。」


「犯人はいたの?」


「犯人…領主の息子でしょうか。」


!!!!!アッサリ!!!!!

「……………。本当に?」


「計画は領主も知っていましたよ。

 協力して逃がす算段があったようです。」


 ??に、逃がす??知って??

「…え、じゃあ、領主様共犯!?」


「そうなります。」


「……ええぇエエ!?!?」

そうですね、じゃないよ。ただでさえ大事件だけど特大スキャンダルだろそんなの。誰だか知らないけど死人も出てるんだぞ!?

 ………逃がす算段……嫌な予感がする。

「火事で亡くなった人って、誰か想像つく?」


「火事、ではないでしょう。

 魔獣に襲われた可能性の方が高い。」


「なんでそう思うの?」


「そのように計画していたからです。」


!!!!!やっぱり!!!!!

「殺人事件じゃん!!!」


「そうとも呼べますか。」


「呼べますかじゃないよ!完全に計画殺人!」

しかも放火、逃亡。どんだけ罪を重ねる気なんだよラダさん!!

「ラダさんとルビさんの二人がやったの?」


「息子だけです。

 領主と娘はすべての計画が整った後に、

 息子から告げられたようですね。

 私には理解はできませんが、

 必要性があったのでしょう。」


「!!……家族ぐるみで共犯なの!?」

そんなの私にも理解出来ない。親に話せる事ではないし、話されたら普通は全力で止める。でなければ通報する。こんな大事件を起こそうなんて、もう親子とか関係ない。

竜の言葉を疑いたくなったのは初めてだ。とても信じられない。あんなに知的で優しい、いいひとに見えたのに、内心めちゃくちゃ病んでいたということなのかラダさんは。

 にしてもやりすぎ!!

 犠牲者が他にも出たらどうすんの!!

 水が豊富だからってやたら燃やすな!!

 時代錯誤だろ!?本能寺かよ!!

「……犠牲者は、ジゼル=フロブラ元聖殿長?」


「計画ではその通りです。よくわかりましたね。

 あとは領主の息子も入るでしょうか。

 他の者は魔法で逃がしているはずです。」


 ……………………………………。

「………どうしてそう思うの?」


「その意思を示していた、

 息子と娘の会話がありました。」


「…………………。」

つまり、ラダさんは領主様に話した通りには動かなかった……。

意外には思わない。誇り高い性格なのは話を聞いていても強く感じられたことだった。

理解できないのは領主様だ。どうして。息子がこんな事件を起こしたらグラ家の破滅だということくらい解るはずだ。ユイマの知識を使うと、エルト王国国王家でも次期国王がテロを起こすなんて民衆が蜂起してもおかしくない事案だ。

 誰か…その後に代わる何かが用意されている?

 それとも、元聖殿長を放置することも、

 ラダさんを庇うことも良くないという考え?

そりゃラダさんの話が事実なら放置は良くないけど、殺人は駄目だろ。殺人犯を庇うのは良くないけど、知ってただろ。逃がそうとするくらいなら、どうして止めなかったんだ。いろいろと判断力が疑わしい領主サマだ。

ヨクワカラン領主サマは、おそらく計画通りなのだろうが、ラダさんが罪を被るように動いている。本人の希望を叶えたのだろうか。実はまんまと逃げていた、となるはずだった……。であれば、ルビさんは計画通りに無事なのかもしれない。

「でも…変だよ。元聖殿長なんて関係ないのに、

 ……どうしてあの場所にいたの?」

さすがに声を出すと震えてしまった。それでも知らなければ。考えなくては。私は遺言を受け取ったようなものだ。


「息子が人を使って招いたからです。

 我々はフーリゼからも観測されている。

 今は聖カランゴールも承知でしょうし、

 領主が帰還したのもその情報の為でしょう。

 元聖殿長は現職ではありませんが、

 情報が速ければ信憑性のある話になります。

 竜と大魔女に会う利益と不利益は、

 ユイマなら想像が出来るはずです。」


 そうだ。ユイマの知識を使わないと…。

 …どうして。どうしてだろう。…どうして…。

引き出そうにも上手くいかない。頭の中が固められたようだ。ギチギチに何かが詰まって歯車が回らない。これ以上進まない。

 ……恐い。………怖い。…………何かが。

「……でも、…その…仲が良いとは思えない。」


「元聖殿長というのは、今は、

 "セオリアドリュート・ナヴァルシュ・ノリス"

 の幹部です。

 どうやら手配したのは元聖殿長自身です。」


「え?」


「領主家で話を聞いたでしょう。

 領主の妻が言っていたミロスの集団ですよ。

 "世界平和の為の天秤"を提唱するもので、

 訳すと<火と水の竜を讃える会>でしょうか。

 説明の通りに第三の魔女など外敵ですから、

 元々は我々を葬るか、認める事に抗議する、

 そのような企てだったということです。」


「……どういうこと?」

いや、その方が理解は出来るけど。ラダさんのことの衝撃がさ……。もう少し順番考えて話して欲しい。…………私の聞き方が悪いのか…。


「それを事前に掴んだ息子が利用したのです。

 警戒対象だったのかもしれませんが、

 情報戦は得意にしていたようですよ。

 幹部として確認することを求められれば、

 確実に本人が来ますから。」


「確認?」


「我々がどんなものかを見に来たのでしょう。

 彼等は全体の利益と不利益を考え、

 その為の標や必要事項には従う教えですから、

 そこに上手く入り込み情報を操作したのです。

 襲撃の情報を手に入れたら、

 日を一日ずらすだけで良かったのですよ。

 高齢のヒト族には少しの傷も致命的ですが、

 今日は明日ではないから安全となります。

 計画にあった魔獣がはたして、

 <火と水の竜を讃える会>のものか、

 別に用意したのかは私には判りません。

 密会の為に公表が遅れていると思われますが、

 直に詳らかになるはずですよ。」


 ……………………。

「……私……何日寝てたの?」


「三日程です。」


三日……それだけあれば用意が出来てしまうものなのか。こんな大事件、こんな…………悲劇が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る