第79話 鳩の塔に鳩が住み着いて卵を産み始めたようだ。
さて、夏にエリコの住人30人ほどで協力して建てた鳩の塔には、無事に鳩が住み着き始めて卵を産み始めたようだ。
野鳥のカワラバトの産卵時期は春と秋だが、これは食べるものが確保できるかどうかが大きいのだろう。
春は麦が実るし、秋はナッツや豆類が実るからな。
しかし真夏の乾季では餌となるものを集めるのが難しい。
もっともエリコのような人の住んでいる場所ではパンくずや残飯や野菜くずなどの食べるものが豊富かつ、日干しレンガの建物の中のような産卵場所の気温が上がりすぎない場所では4月~10月のあいだずっと産卵が可能らしい。
流石に寒い時期には卵が孵らない可能性が高いから、産卵はやらないようだがな。
ちなみに、鳩は木の枝数本だけおいて適当に巣作りをすることも多く、カラスなどに比べると巣作りは非常に雑だがこれは元々森林資源の少ない場所の鳥だからだろう。
本来巣を作るまでの鳩の行動としては、まず猛禽やネコ、蛇、あるいは卵を狙うネズミなどの天敵がおらず、食べ物や水が確保しやすい、周囲が何かに囲まれている場所を探す。
鳩は本来、高い崖のくぼみや岩棚といった場所に巣を作るがこういった場所は、前後左右に何かしらの障害物があって、囲まれていることが多く、猛禽に襲われづらい上にネコ、蛇、ネズミなどもいない。
そして最初は短い時間の休憩に使うだけで、昼には来るが夜にはねぐらに戻る状態だが、安心できる場所であると認識して仲間を待つためにその場所を使い始め、多数の鳩が集まるようになる。
そしてそれが進むと鳩が夜にねぐらとして使い始め、夜にも居着くようになり巣が作られ産卵を始めるようになる。
ただしこの行動はさほど長い時間をかけて行われるわけでないので、現代だと気づいた時には巣があったなんてことも多く、すぐに卵を産んでしまう。
また、鳩は巣を自分でいちから作らずに再利用して子育てすることもある。
ほかの鳩が使った後の巣や、鳩以外の鳥が作った巣、あるいは巣として使えそうな柔らかい布や土の上などでも、何でも使って子育ての場所を確保してしまう。
鳩の繁殖力の高さはそういった巣作りの雑さによる産卵までの速さもあるが、意外とそれでも雛は孵化したりするらしい。
そんな性質を持つ鳩を集めるために最適な構造なのが鳩の塔というわけだ。
同じように崖に巣を作る鳥としては小型の猛禽で隼の仲間のチョウゲンボウがいる。
チョウゲンボウの体の大きさはハトよりひとまわり大きいくらいで主に狩る対象になるのはネズミや小鳥、カエルなどの小さな動物で、基本的には単独かつがいで生活するため縄張り意識が強く集団で生活する鳩と同じ場所に巣を作ることはあまりない。
とはいえ現代では、チョウゲンボウも市街地でもよく見かけるようになったようだが。
これは、獲物となるネズミや小鳥類が豊富なこと、天敵となる大型猛禽や蛇、ネコなどが少ないこと、ビルなどの構築物がねぐらや繁殖場である断崖の代わりになっていることなどが理由らしい。
というわけで鳩の塔の中を覗いてみたんだが、どうやら鳩に混じってチョウゲンボウも巣を作ってしまったらしい。
まあ、鳩とチョウゲンボウは巣作りに好む場所は似ているし、エリコはネズミや小鳥も多いからちょうどよかったんだろうな。
一応小型とはいえ猛禽のチョウゲンボウと鳩が一緒の場所に巣を作るというのも不思議だが、チョウゲンボウが鳩の卵や雛を襲うようでなければほおっておいてもいいだろう。
巣が安全な場所にあり餌が豊富に獲れる場所は少なく、チョウゲンボウの夫婦は子育ての場所を探すのに苦労しているらしいし、ネズミを食べてくれるなら大歓迎だしな。
それはともかく、そろそろ鳩を捉えて食べてもいい頃合いだろう。
俺は念のため村長のマリアに許可を取りにいく。
「マリア、そろそろ鳩の塔に住み着いた鳩の数も増えてできたんせ、捕まえて食べてみようと思うがいいか?」
俺がそういうとマリアはうなずいた。
「はい、あの建物の建築を提案したのはあなたですしそろそろ大丈夫とあなたが判断するのであれば問題ありません。
他の住人にも鳩を捕まえていいと伝えてもよろしいですか?」
マリアの言葉に俺はうなずく。
「ああ、特に妊娠中や子供が産まれたばかりで自分では卵を食べられないような女性には優先して食べてほしいっ伝えてもらえればありがたい」
「わかりました。
ではそのように伝えますね」
とマリアに許可も得られたので、俺ははしごを掛けて鳩を二羽捕まえた。
鳩はほかの鳥に比べて警戒心がかなり弱く、人のそばにもよく近づいてきて余り逃げないんで捕まえるのは簡単だ。
そろそろひよこ豆の種がなる季節でもあって鳩もふっくらとしているな。
まず締めたら血抜きしていき、お湯に鳩をつけ羽根を抜いた後、産毛のような細い毛が残っているので炎で軽く炙って毛を焦がしていく。
そして内蔵を取り出したら一羽は塩を振ってお腹にローズマリーや麦や豆を詰めて丸焼きにする。
もう一羽は解体して炻器で骨からだしが出るように肉や内臓の一部ごとじっくり煮込んでスープにする。
「よし、できたな。
リーリス、アイシャ、食事だぞ」
息子をあやしていたリーリスが聞いてくる。
「はいはい、あら今日は鳥なのね。
でもアヒルでもガチョウでもないみたいだけど」
「ああ、鳩の塔から鳩を捕まえてきて調理してみた。
とりあえず食べてみてくれ」
「わかったわ」
というわけでリーリスはお腹にローズマリーや麦や豆を詰めて丸焼きにした方をひとくち食べた。
「あら、ちょっと血みたいな味が強い気がするけど、美味しいわね」
「ああ、だから女性にはいいんだ」
鳩肉は鉄分やビタミンB群が豊富だからな。
そしてスープを飲んでいたアイシャも言う。
「すーぷもおいしーの」
「ああ、それなら良かった」
そして美味しそうにスープに入った肉を食べているアイシャの様子を息子は指を加えてみている。
「たべたい?」
アイシャがそう聞くと息子はコクコクうなずいた。
「じゃあたべさせてあげる」
とアイシャはさじで柔っかくなった肉をすくってフーフーと冷ますと息子の口元にそれを差し出し息子はそれを口に入れてハムハムと噛んでいる。
そして笑顔で、
「うまー」
と言ってバンザイをした。
鳩の塔にすみつける鳩の数はかなりの数になっても大丈夫なようにくぼみはたくさん作ったし、水は泉があれば大丈夫だ。
食べ物は残飯やこぼれたパンくずなどを食べてれば大丈夫だろう。
これで食料の確保が楽になるなら苦労して鳩の塔を立てた甲斐があったというものだ。
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