55. スマホない世だから月見


 スマホない世だから月見付き合える


 井関隆子様という、江戸後期の旗本のご夫人が居られまして、江戸城にほど近い屋敷に住まわれていて、後妻ながら奥方様として、義理の息子やら孫やらと家族仲良くにぎやかにお暮しであったそうな。


 暮らし向きもそこそこ裕福で、屋敷の隅にご自分専用のお庭をお持ちで、すすきやら山茶花さざんかやら、好きな季節の植物を植えたりして気ままな老後を送っている生活の様子や、幕末の世相なんかをユーモアと教養を交えて達筆な筆で日記に書き残していたそうです。


 本日は中秋の名月の日ですね。天保年間のこの日、お酒も愛する井関隆子様は、もちろんご自慢の庭に家族を集め、すすきと満月をつまみに賑やかに月見宴会を催しになられた。この時代、夜は行燈あんどんの光くらいしか明かりが無いので、月の光がそれははっきりと美しく見えたでしょうね。さぞや優雅なお月見だったことでしょう。


 そんな大奥様の隆子様が、皆でお月見しましょうよと誘ったら、家族が全員出て来てにぎやかに集まって月を見ながら長い夜を過ごす、なんとも麗しい光景です。


 多分、現代だったらスマホがあるので、子供達は月なんか見ないで、食べるものだけ食べたら、さっさと部屋に引き上げるか、居たとしてもスマホゲームに夢中になっていることでしょう。


 江戸時代のお月見、良いなあ、と思いました。

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