第18話 もう一度

 もう一度


 詩句とも思えぬほどの短文である。「もう一度」のあとに、なにか言葉は続くはずであったが、言葉につまって、それきりになった。きっと、この言葉のあとに、何か書かれると思うが、ひとそれぞれの何かが続けばよいと思っている。

 私にとっての、「もう一度」は二十代前半に殺到している。何度「もう一度」と思ったかしれない。絵画コンクールに、絵画作品を出品しては落選を繰り返していた。毎回の出品料も五千円から一万円ほど掛かり、作品の送料などの諸経費を入れると二万円から三万円ぐらいは掛かり、負担であった。生活費の捻出も飲食店などのアルバイト仕事の薄給で、明るい未来を描けず、「もう一度」と言っているうちに時間だけが過ぎていった。

 結果がついてこなかった。「もう一度」と思ってやっていたが、良い結果にならなかった。私は「もう一度」をやめた。やめるのに五年掛かった。絵画コンクールへの出品をやめて、「もう一度」表現の世界で挑戦した。それは絵画ではなく、同人雑誌と云う形式をとり、作品を審査されるのではなく、直接、作品を鑑賞者に提供した。これは、うまくいった。絵画コンクールとはちがい、作品が鑑賞者の目に触れ、作品が購入される可能性があった。私は熱狂した。たとえ安価な雑誌でも、いくつか売れてゆくと、まとまった金になった。その金が、私にとっては初めての表現で得た金であった。



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