第16話 現実と刺しちがえる

 現実と刺しちがえる


 不穏な詩句である。こんなことを思うのは不幸なことである。しかし、そううことのほうが多い気もする。

 うまく生きられない。・・・二十七歳のとき、絵画制作のために、無理に時間をつくろうとして出来た借金は借入限度額の50万円になり、もう借りられなかった。借金返済の目途めどはなく、絵画も出来なかった。討死うちじに状態であった。

 四十歳まえに、花粉症になった。世間で言われている花粉症は、それまで私にとっては他人ごとであったが、自分がかかってみると、案外、重症で、半寝たきり状態になり、絶望的な気持ちになった。今度は、人間社会を相手にするのではなく、大自然を相手にして、私は途方とほうに暮れたものだ。実際、花粉の飛ばない地域への移住や、花粉のない大海へ行くことを考えたりしていた。もう、地球では暮らせないと思った。そして、花粉症に効く特効薬はなく、耳鼻咽喉科に行っても効果はなく、また、市販の薬とも言えないものを、次々に試していった。まさにおぼれる者のわら、であった。甜茶てんちゃ、べにふうき、じゃばら、シソのドリンク、緑茶の茶葉をすりつぶして飲用して試し、次に乳酸菌を試した。私には、この乳酸菌が効いた。溺れて、あがいて、つかんだ、ひと筋の藁であった。

 今、また五十八歳の私は、現実と向き合って、今度こそ、刺しちがえる状況である。現実は、常に苛酷かこくである。絶体絶命の状況に追い込んで、さあ、どうだ。どうすると、せまる。今度も、うまく、切り抜けねばなるまい。


 

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