第15話 しあわせは 速度のなかにない

 しあわせは 速度のなかにない


 いつも、不思議に思っているのだが、何故なぜ、われわれは何時いつも急がねばならぬのか、とうことである。車輪の発明はすばらしかった。利便性の不便にまさるのは、あたりまえである。しかし、何故なぜこれほどまでに急ぐのか。

 日雇ひやと土工どこう仕事をしていた頃の話である。る朝、高田馬場のヤマ(土工仕事の手配師のいる屋外の場所)から横浜の工事現場まで高速道路をワゴン車で走っていた。

 ワゴン車を運転していたのは、私とおなじ土工作業員であったが、車の速度が尋常じんじょうではなかった。車のスピードメーターが制限速度以上になり、異常音のアラームが走行中、鳴りやまなかった。

 運転している男は顔色ひとつ変えず、ワゴン車のなかは、お互い見ず知らずの男たち四、五人が運命に身を投げ出していた。

 車は、ときおり横風を受けて、ブルブルと車体を揺らし、タイヤが路面を滑って行くのが感じられた。

 死ぬとしたら、今だろうと思った。強風にあおられた車は横転し、何度も車体は回転しながら乗員は血だらけになる。見るも無残な死体の数々。

 私は、莫迦ばかげていると思った。命をけて疾走しっそうしているのである。これほど無意味なことはない。

 京都福知山線では、悲惨な列車脱線事故が発生した。このときも無意味にスピードを出しすぎての事故であった。運転手は鉄道会社にせかされ、事故を起こした。



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