第12話 あまりのこと きのう〈一日〉生きるをわすれた

 あまりのこと きのう〈一日〉生きるをわすれた


 絶句して、終わり。この世には、思いもよらぬ理不尽な瞬間がある。衝撃を全身に受けて「人生」が停止する。

 二十七歳であった。私は、三畳ひと間のアパート暮らしを三年間でやめ、実家に戻った。しかし、実際の転居理由は、大家おおやの都合で、アパートの取り壊し、土地の転売が決まったからであり、私は追い出され、だらしなく知人宅に二週間ほど居候していた。

 私は東京暮らしに未練があり、新たな住居を確保しようと、日払いの土工仕事に出ていた。しかし、る日、電車のなかで財布を落とし、全財産を失った。仕事で貯めた二万七千円は戻らなかった。青森県出身の知人は、私にこれ以上の同情を寄せなかった。私は、深夜の新宿を徘徊はいかいし、深夜喫茶の椅子いすに座り、見知らぬ若者たちから理不尽な仕打ちを受けた。

 実家に戻った私は、大きな工場で、臨時期間工員としてエンジン製作機械の組み立てをしていた。工場の仕事は順調だった。組み立ての仕事は、私の感性に合っていて暢気のんきにやっていた。しかし、二週間ほどして、状況は一変した。私は組み立て工場から、溶接工場へと配置換えとなった。溶接工場は小さな部署で、工員数も少ない。私のこともわだかまりなく受け入れてくれた。しかし、幾日かすると、私の上司である工員が、私の仕事に異議を申し入れた。私は短時間で、すべての作業行程を完璧かんぺきにこなした。それが上司には気に入らなかった。る朝、私は上司から、私の居場所はここにはない、と言われ、私は工場から追い出された。


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