第11話 一難さらずまた一難

 一難さらずまた一難


 今も、昔も、難事が降りかかることに変わりはない。近頃の難事は、もっぱら身体に関することで、胃腸の具合が良くないと思ったら、次は首肩の血行が悪くてコリが酷くて、首も曲げられぬ始末である。また、それが終わると、今度は顔面の左側に神経痛のような、歯痛、歯肉炎痛のような不具合があり、たまらない。これも加齢によるものと一蹴いっしゅうすればよいが、痛みは相変わらずである。鬱陶うつとうしいかぎりだ。

 そして、また、目を逸らしていた絵画の仕事も、二十年来はかばかしい成果もなく、今日に至っている。私にとって、体調を良好に保つのも一義であるが、仕事の続行、仕事内容の充実を図ることは、更に重要であった。

 私の仕事を、時代をさかのぼってみると、最近の四十代前半(当時)は木版画を制作している。版画はほとんどが擬人化した漫画のような猫をモチーフとして、散文詩的なストーリー漫画の形式である。一作品が二十ページほどのもので、これらの作品は漫画雑誌「アックス」青林工藝舎に幾度か無報酬で掲載された。三十代後半は銅版画制作を三年間していた。これは、私の作品制作ではなく、漫画家の永島慎二氏の銅版画制作の、銅版画の製版、印刷を担当していた。これには若干の報酬があった。また、私は、猫の木版画制作をして、個展、グループ展に参加していた。三十代前半は同人雑誌出版の継続や「ギャラリー歩道橋」と云う移動形式画廊のパフォーマンスの継続をしていた。また、井の頭公園内では自作のアート系プリントTシャツを販売していた。Tシャツの横には、私の小さな銅版画、木版画をならべて売った。二十代後半は商業映画の小道具制作を一年間請負仕事としてやった。このときは、私はフリーの職人として無理な注文や低報酬を呑むしかなかった。仕事は、流されてするものではなかった。


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