第13話――才能


 三月十二日。正午過ぎ。


 相川あいかわは、一昨日の夜にリサーチをした土瘤山つちこぶやまを越えたところにある瘤山町こぶやまちょうという集落に来ていた。

 車から眺める限り、周りは山で囲まれ、合間に林や田んぼを挟むようにポツポツと民家がまばらに点在している。


 謎のクライアントから振り込まれた依頼料は、警察に預けた。だからリサーチする義務は、もう彼にはなかった。

 しかし、何か後味が悪いものを感じ、気づけば葉室家の近くまで来てしまった。


「何か見えるかもしれない」


 相川自身、数年前から自分の中に急に目覚めたこの『個性』に、まだ完全に困惑を拭い去れてはいなかった。


 霊視れいし

 刑事を引退する三年ほど前から、急に目覚めた才能だ。をきっかけに。


 そう――。


 その時、捜査に協力した探偵が今の自分と同じ状況だった。


 「超常現象」を専門に扱う探偵。

 名前を由良一之ゆらかずゆきと言った。


 身体が小さく、丸く幼い顔。銀縁の眼鏡をかけて、大人しそうなパッと見では、探偵とは思えないくらい内気で、華奢な青年だった。背丈は百五十センチメートル半ばくらいで高倉より少しあるくらいの小柄。

 三人で捜査をしていると、先輩の刑事から「お子様達と何をガサ入れするんだ?」と冷やかされたこともある。


 成り行きで、彼との共同捜査に当たったが、その過程で相川の眠っていた『才能ギフト』が由良青年の霊感に触発されるように目覚めていった。まるで、化学反応を引き起こすかのように。


 しかし、事件解決間際で、彼を…………


 死なせてしまった。


 客観的に見ても不可抗力で誰の責任でもなかった。

 しかし、相川は警察を辞めた現在でも、その罪悪感に苛まれ、自身を責め続けている。


 ふと前を見ると、家の周囲を囲っている屋敷塀が見えた。


 相川がそれ沿いに歩いていると、塀は突き当り右へ曲がっていた。塀の外は木々が生い茂り、そこからは山になっている。屋敷塀沿いに十メートルほど先に目を遣ると、何かが目に入った。


 ちょうど塀と裏山の境目に人が立っていた。

 人が立つにはあまりに足場が不安定で、よく見てみると、その足は塀についておらず、宙に浮かんでいた。

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