第9話――登録アルバイト


 高倉と米田は、女性の話を手掛かりに、和也が勤務していたと思われる派遣会社ハートスタッフの本部がある千代田区内のビルを訪れた。


葉室和也はむろかずやさんの居所を知りたいのですが」


「今は、どの工場も繁忙期過ぎて仕事がないですからね。この一カ月くらい音沙汰ないんですよ」


 四十代くらいの、がっちりとした体格で眼鏡をかけた和也かずやの担当社員だったという男性が口を開いた。首から下げた札には、顔写真と「今村卓巳」という名前が入っている。


「葉室さんの勤務態度は、どうでした?」


「ええ。派遣先の先方さんからは、とてもいい評判でしたよ。仕事も真面目にこなすし、周りとのコミュニケーションもとれていて。特にパートのおばちゃんたちには、可愛がられてたみたいで。まぁ、甘え上手というか」


 高倉と米田は、意表をつかれたように顔を見合わせた。


「何か……人間関係でトラブルとか?」


 高倉が確認し直すように、もう一度聞き返す。


「いえいえ。そんなの全くないですよ。に限って」


「はっさん……?」


「元々人懐っこいんで彼は、敵は少ないと思います」


 嘘を言ってる風には見えなかった。

 少し探るような目つきで、高倉は聞き返した。


「随分と彼のことをご存知のようですが。社員と登録アルバイトという関係ですよね?」


 今村は、周りを気にするように少し声を潜めた。


「ああ……。実は、彼と初めて会ったのは面接ではなくて、よく飲みに行ってた焼き鳥屋で……。カウンターの隣の席に座ってて、仕事探してるっていうから、『じゃあうちに来る?』て軽いノリで。歳もタメだったから」


 高倉が、ふと何かに気づいたように問い返した。


「葉室さんに彼女や奥さんは?」


「いいえ。独身ですよ。でも、ああ……。一緒によく行ってた……はっさんに教えてもらったその『飲み屋』の子とは結構仲が良かったみたいです。しょっちゅう電話してました」


「飲み屋?」


 高倉が、その曖昧な表現を逃さないように問い返した。


「キャバクラですか?」


 隣にいた米田が要約するように言うと、高倉は眉間に皺を寄せながら、米田の方を向いた。

 今村がまた周りを見回した後、顔をこちらに近づけて囁き声で言った。


「……ええ。気にいった子がいて、私と一緒に行く前から一人で通ってたみたいです。まぁ付き合ってるというより、彼の方がみついでいる感じでしたけど」

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