第33話 絶望し次の手を考える教頭

 要求があるなら、さっさと言ってくればいいのだ。

 こんなまどろっこしいことをしていないで。

 どうせ金だろう……金が欲しいんだろ! 私のように!

 いいさ……金ならいくらでも出せる……私からじゃなく校長からな……


『もうあなたとは会いません。今までありがとうございました』

 校長の嫁から突然こんなメールが届いたのは、先月……五月の中旬頃のことだった。

 私は言葉を失った。

 これは……いったいどうしたことか?

 この間の浮気疑惑は……まあ、校長との嫁としていることも浮気と呼べるものなのだが……晴れたはずなのに。

 というか、私の大事な金づるが離れて行ってしまう……そんな馬鹿な! なぜだ!

『なぜですか、私はあなたになにか不愉快な思いをさせましたか?』

 私が送信した問いかけのメッセージに、校長の嫁からの返事は、ついにこなかった。

 いつまで待っても来ない返事を待つ私の手が、ガクガクと震えた。

「困るんだよ、それじゃあ!」

 私はついこの間、競馬で大損してしまっていた。

 私には強力な助っ人がいるから安心だ……そう思っていた矢先だった。

 私は金曜から土曜になったばかりの深夜一時に、校長宅の前に車をつけ、いつものように校長の嫁が出てくるのを待った。

 しかし、いつまで経っても出てこない。

 メッセージを送っても、電話をしても事態は変わらなかった。

「くそっ、本気か!」

 私は混乱し、苛立った。

 こうなってしまった理由はなんだ?

 まさか、またいたずらか……なんなんだ、いったい誰が⁉ なぜ⁉

 思い返せば、おかしなことが起きたのは去年の文化祭からだ。

 校長と私に渡された、カタカナが並んだ二種類のメモ。

『アノコトヲゼンブバラソウトオモウ』

『モウゲンカイダコトワル』

 あのメモを作った人物と、見知らぬ女とのツーショット写真を校長の嫁に送ってきた人物は、もしかしたら同じなのではないだろうか?

 文化祭の後、もしかしたらその人物から金銭の要求があるのではないかと、しばらくの間身構えていたが、それらしいことはなにも起きなかった。

 なんだ、やはりただのいたずらか……と思っていた矢先に今度はツーショット写真だ。

 これが学校関係者の仕業なのだとしたら、あの養護教諭の線はあまりないような気がした。

 文化祭は九月の末、彼女がうちの学校に着任してからわずか一ヶ月後の出来事だったからだ。

 では、いったい誰が?

 私は再び警戒した。

 きっと、昔からいる教員達の中の誰かに決まっている……特に競馬に誘ったことのある教員は皆怪しいと思った。

 だが、校内でどんなに監視の目を厳しくしても怪しい素行は出てこない。

 四月になり、また新しい学生が入ってきた。

 慌ただしく過ぎていく中で、私は苛立ちを募らせていく。

 そんな中での、今の状態なのだ。

 私は三週続けて校長の嫁を待ったが、やはり駄目だった。

 こうなったら、急いで次の金づるを探すしかない。

 私の頭に浮かんだのは、一人の母親……金子正美の名前だった。

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