第83話 グループ

「颯君お願い!! うちを家に泊まらせて」


 瑞貴は上目遣いで颯におねだりをする。


「う~ん。自宅に入るのは全然構わないけど。お泊りは…ちょっと」


 自宅へ入ることは了承するが、お泊りについては曖昧な返事をする颯。異性の同級生を自宅に泊めるのは多大な抵抗があった。


「え~~。遥希ちゃんとは一緒にお風呂に入るのに、うちは1日ですら颯君の自宅に泊まることも叶わないんだ~~。悲しい~」


 不満を漏らしつつ、ニコッと笑みを浮かべ、瑞貴は颯に圧力を掛ける。その圧力は颯にグイグイ伝わる。


「う、うん。分かったよ。…中谷さんが……お泊りを望むなら」


 泊りを断る明白な理由を見つけられず、瑞貴の圧に屈した颯は瑞貴の泊まりを許可した。


「本当に!! やった~!! ありがとう颯君!!! 」


 嬉しそうに表情を綻ばせ、颯の案内に従い、瑞貴は彼の自宅に足を踏み入れる。


 瑞貴の口調からご機嫌なことが容易に想像できる。


 玄関で瑞貴にローファーを脱いで貰い、颯はリビングに彼女を通す。


「わぁぁ~~。颯君の自宅って、こんな感じなんだ!! すごい整頓されて綺麗」


 興奮気味に鼻息を荒らしながら、瑞貴は右往左往にリビングを観察する。


(そんなにテンションが上がることかな? ただの一般的な一軒家だと思うけど? )


 一方、立っているのが面倒臭くなった颯はリビングのソファに座る。背もたれに全体重を預ける。


「あ、颯君。1人で寛いじゃって。うちも同じ所で同じことしちゃお! 」


 颯がソファに座った直後、許可も取らずに、瑞貴は彼の真横に腰を下ろす。


 そのままピトッと身体を接近する。当然、瑞貴の豊満な胸は颯の左腕に触れる。遥希のたわわとは大きさも以外にも柔らかさや感触も異なる。女性でも個人差が存在するようだ。


(こ、これは。あ、あれが当たってる!? )


 胸中で動揺が隠せない颯。助けを求めるように、横目で瑞貴に視線を移す。


「当たってるんじゃないよ? 当ててるんだからね」


 意味深な言葉を紡ぎ、颯の心にアピールするように、瑞貴は右目をウィンクする。


 瑞貴の言い分に返す言葉が見つからず、そのまま瑞貴のたわわを堪能した颯であった。この日、颯は初めて女性の身体的な特徴には個人差が存在することを知見で得た。


「アルバイトの仕事を決めるないと。グループでも作って話し合う形で良いかな」


 颯の左腕に豊満な胸を押し当てたまま、瑞貴は自身のスマートフォンを操作し始める。


「ミインでグループ作るから、颯君の連絡先が必要なんだよね。今から交換できる? 」


 アルバイトの職種を決めるために、トーク系SNSミインでグループを作ることを提案する瑞貴。


「うん、できるよ。ミインのQRコードは俺が出すね」


 颯もスマートフォンを操作し、目的のQRコードを画面に表示すると、瑞貴とミインでの連絡先を交換する。


「やった。…颯君の連絡先ゲット…」


 颯の連絡先を入手した瑞貴は非常に嬉しそうに自身のスマートフォンを両手を使って優しく抱きしめる。豊満な胸でスマートフォンが埋もれる。


 瑞貴がスマートフォンを操作して少し経過すると、颯の携帯に1つの通知が届く。ミインのグループの招待の通知であった。


 颯はグループの招待を受け入れ、参加する。


 グループ名は『颯君のアルバイトのために集結した女達』である。


瑞貴『アルバイト何にする? アイディア募るよ。ジャンジャン出してね! 」


 全員がグループに参加したことを確認した瑞貴は、話を切り出す。


愛海『ティッシュ配り、交通量調査、販売スタッフ』


遥希『イベント警備とか』


 愛海と遥希から次々とアイディアが生まれる。


「何個かアルバイトの職種の候補が出たけど、この中で颯君が気に入った物はある? 」


 どれが良いかと、瑞貴は上目遣いで颯に尋ねる。


「う~ん。この中ではティッシュ配りかな。アルバイト未経験の俺でも何とか出来そうだし」


 直感に従いつつ、難易度が低そうなティッシュ配りを選択する颯。


「了解! 」


 元気よく返事をすると、瑞貴は再びスマートフォンを操作する。


瑞貴『個人のミインで聞いた結果、颯君がティッシュ配りが良いって。うちもティッシュ配りに賛成ね」


遥希『颯が希望するならティッシュ配りで決まりだな』


愛海『愛海もティッシュ配りで良いよ!! 』


瑞貴『決定だね。早速、ティッシュ配りの短期バイトの求人を探さないとね』


遥希『それは任せてくれ。見つかり次第で連絡する』


瑞貴『ありがとう遥希ちゃん! お任せしても良いかな? 』


遥希『おう!! 』


 ここでトークが途切れる。


「決まったね。本当にティッシュ配りで大丈夫? 」


「うん。問題ないよ。色々とありがとう」


「ふふっ。遥希ちゃんと愛海ちゃんは、颯君とうちが2人きりで居ることを知らないだよね。そう考えると2人だけの秘密を共有しているみたいでドキドキするね? 」


 颯の左手と自身の右手を絡め、瑞貴は悪戯げな笑みを溢した。


 2人での秘密という言葉に反応し、颯の心臓はドキッと強く跳ねた。

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