第81話 同じ匂い
颯が通う学校の休み時間、いつも通りの光景が広がっていた。颯の席には、遥希、瑞貴、愛海の仲良しグループが集まっていた。
颯はいつものように自分の席に座り、遥希、瑞貴、愛海が彼の形で立つ。
「それにしても、はるっちが遅刻なんて珍しい。この学校に入学してからは初めてじゃないかし? 」
不思議そうな顔で、愛海が遥希に尋ねる。
「あ、ああ。…ちょっと寝坊してな…」
愛海の顔を直視できず、歯切れの悪い返答をする遥希。明らかに動揺が見て取れる。
「あれ? 遥希ちゃんらしくない。…何だか怪しい! 」
遥希の言動を違和感を覚え、疑いを掛けるように、瑞貴は眉をひそめる。
「それに!! さっきから気になってたんだけど!!! 」
普段のおっとりした口調を少しだけ残して語気を強め、瑞貴は遥希に接近する。
「スンスンッ。スンスンッ」
いきなり颯と遥希の周りを嗅ぎまわる様に、瑞貴は鼻を動かす。颯と遥希から香る匂いを探索する。
「やっぱり匂いが…」と言いかけ、颯と遥希から同じ匂いが漂うことに気づいて、瑞貴は分かりやすく顔をしかめた。
「そういえば、確かに2人から同じ匂いするよね。なんで? 愛海、気になる」
愛海も不思議そうに問う。
「うっ…。な、なんだよ。偶然だよ。なぁ? そうだよな颯」
瑞貴と愛海の圧力に圧倒されながらも、遥希は救いを求めるように颯に声を掛ける。
「う、うん。そうだよ。たまたまだよ!! 」
流石に今朝の出来事を話すことは躊躇われ、颯は咄嗟の判断で遥希に話を合わせた。一緒に入浴したなど颯からは口が裂けても言えない。
「たまたまで同じ匂いが身体から漂うのは明らかにおかしいと思うよ。それに男女で同じ匂いがするなんて絶対に有り得ないよ。それに。知ってるだからね!! 今日、遥希ちゃんと一緒に颯君も遅刻してたこと」
「それに関しては愛海も、みずっちに同意かな」
瑞貴と愛海は颯達の言い分を全く聞き入れようとしない。どんどん疑いは膨らむ。
「わ、わかった!! わかったよ!! 正直に話せばいいんだろ!! 話せば!!! それで納得するか? 」
瑞貴と愛海の圧に屈し、遥希は投げやりな態度を取る。
「ちょっと! 八雲さん!! いいの? 」
「しょうがないだろ! こいつら正直に打ち明けないと絶対に納得しないぞ!! ちなみに私は打ち明けても問題はない。その…颯はどうなんだ? 」
なぜか両頬を赤く染め、颯から目を逸らしながら確認を試みる遥希。
「は、はぁ」
突然の不可解な遥希の表情に対応できず、颯は違和感のある返答をしてしまう。
「なにこれ。変だよ。愛海ちゃんも、そう思わない? 」
「流石に思うし。2人だけの世界が出来てる感じ」
瑞貴と愛海から、それぞれ不満の声があがる。
「話を始めて良いか? えっとだな。私と颯から同じ匂いが漂うのはな———」
本日の朝に起こった出来事を、順序立てて説明した上、遥希は颯と入浴をした事実を打ち明けた。一緒に風呂場で過ごし、同じシャンプーやボディソープも使ったことも説明した。
「「!? 」」
すると、瑞貴と愛海の表情が一変した。
「へぇ〜〜。一緒にお風呂か〜〜。颯君。そんないやらしいこと遥希ちゃんと楽しんでたんだ〜〜。へぇ〜そうなんだ〜〜 」
普段のおっとりとした優しいオーラは何処にやら。瑞貴は全く笑っていない不気味な笑顔を浮かべ、棒読みで言葉を紡ぎながら、颯だけを見つめる。
「あの。その。いやらしいことなのかな? 」
最適な言葉を見つけられず、明らかに火に油を注ぐような選択を取ってしまう颯。
「信じられない!! それにしても遥希ちゃんが羨ましすぎるよ!! うちも颯君と一緒に、お風呂入りたい!! 一緒のシャンプーやボディソープ使いたい!!! 」
まるで幼少期の子供のように、恥ずかしげもなく嫉妬の気持ちを露わにする瑞貴。
「やるなぁ〜。はるっち。愛海も負けてられないな〜。お風呂以外で天音っちと楽しめることは他に無いかな……」
一方、瑞貴とは大きく異なり、愛海は密かに遥希に対して対抗心を燃やしていた。そのための戦略を練る途中のようだ。
それからというもの、休み時間が終了するまで場は、いつも通りのように収まることは無かった。
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