第77話 は!? 何してんの!?

 ピ~ンポ~ン。ピ~ンポ~ン。


「…ううん~」


 自宅のドアフォンの響きで目が醒める颯。まだ意識は朦朧としている。


昨日の出来事により、藤田に対する恐怖心は完全に晴れた。しかし、その反動で緊張の糸が切れたように、ドッと颯の身体に疲れが押し寄せた。そのため、普段よりも遅く起きる形となった。時刻は7時半を過ぎているにも関わらず、未だにベッドで寝転がっている形だ。


「…よっこいしょ…」


 半分寝ぼけたまま重い身体を起こし、颯はベッドから立ち上がる。自分の部屋を後にて階段を下り、1階に到着する。そして、眠そうに目を擦りながら、リビングのドアフォンの画面を確認する。


「やっぱり。八雲さんか」


 ドアフォンを介して訪問者の遥希を認識し、瞬間的に目が醒める。


「でも、やばくね? 昨日お風呂入ってないんだよね」


 内心焦りながらも、このまま遥希を外で待たせる訳にもいかず、ドアを開けて遥希と顔を合わせる。

 

「ごめん。汚い話だけど、昨日の夜に風呂に入ってないんだ。だから、先に登校してくれないかな? 八雲さんに迷惑掛けちゃうから」


朝の挨拶も交わさず、開口一番に申し訳なさそうに両手を合わせ、颯は遥希に先に行くように提案する。


颯なりの配慮であった。お風呂に入っていない人間と一緒に居たくないと決めつけていた。


「うん? 颯なら、何日お風呂に入ってなくても私は気にしないぞ。他の男は別だが。それとなんのために颯の自宅に来ている。絶対に先には行かない。たとえ学校に遅刻してもな」

  

颯の予想に反し、遥希は提案を拒否する。遥希は真剣な表情を作り、本気度が伝わる。

 

「いいの? 」


「ああ。何分でも待つぞ」


「そ、そう。ならリビングで寛いで待っててくれるかな? 」


無理やり先に行けと強制できず、遥希を自宅に上げてリビングで待って貰うことにした。

 

「じゃあ、ちょっと待っててね! すぐに、お風呂で身体を洗い流して来るから!! 」


遥希の返答を待たずに、早歩きで風呂場と繋がる洗面所に向かい、颯は高速で着ていた部屋着を脱ぎ捨てる。


脱ぎ捨てた部屋着を洗濯機に放り投げると、全裸で風呂場に足を入れる。


「よし!! 昨日の夜に湯だけは溜めておいたから、浴槽には浸かれそうだ。冷えた湯を熱湯で温めれば完璧だな」


浴槽に湯が溜まっていることを確認し、風呂場の蛇口を捻り、お湯を流し込む。


その間に、颯は高速で頭を洗い始める。


 少なくとも遥希を待たせているため、悠長に入浴する暇は無い。


 2分ほどで髪を洗い終えると、バスチェアに腰を下ろし、ボディソープに手を掛ける。


手の平に溜まったボディソープをガサガサしたボディタオルに刷り込み、泡立てる

ために振るように上下にゴシゴシする。徐々に泡立ちが大きくなる。


「ちょっと。バスタオル借りるぞ」


風呂場の外。洗面所の辺りから遥希の声が届く。

 

「どうぞ」


バスチェアに座り、身体を洗いながら片手間に答える。そのまま手足をボディタオルでゴシゴシ優しく擦る。颯の筋肉質な腕や足が泡まみれになる。


「ちょっと、お邪魔してもいいか? 」


突然、風呂場の戸が開く。


戸の音に敏感に反応し、颯は振り返る。


「え!? 何してんの!? 」


 戸の方を視界に収めて驚きの余り、颯は思わず悲鳴のような声を漏らす。それほどの衝撃であった。


そこには豊満な胸を中心にバスタオルを巻き、際立つ乳白色の艶々の肌を露にする遥希の姿が有った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る