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「どうして僕は上手くできないんだ…。」


ユリウスは植物局の自室でぐったりしたようにソファに倒れ込んでいた。

ベンジャミンがここに勤め始めてから、ここ最近まで全く見ることのなかった姿だが、ルフェルニアをフッたというあの件以降、よく目にするのだから困ってしまう。


ベンジャミンはローズマリーが意気揚々と植物局から帰る様子を見ていたので、何となくすべての事情を察していた。あの妙ちきりんな夫人、令嬢の会のことを知っていたからだ。

そして、どうして何でもそつなくこなす人なのに、この件に関してだけはこんなにも面倒くさくなるのかと、頭を抱えた。


「…このままじゃ、ルフェルニア嬢に嫌われていると勘違いされて、逆に嫌われてしまいますよ。」

「そんな!」


ベンジャミンのひと言に、ユリウスは瞬時に起き上がった。


「だって、目が合って毎回逃げていたら、そう思われても仕方ないじゃありませんか。」


ベンジャミンは面倒くさそうにため息を吐いたが、この件に関してひとつだけ感謝していることがあった。それは以前よりもユリウスに気軽に声を掛けられるようになったことだ。


今までユリウスは冷たい眼光も相まって、接するときは常に緊張をはらんでいたが、この様子を見てしまうと、彼も人の子だったのだなぁと思わずにはいられない。


「…そうか…そうか…。」


ユリウスは呆然とそう言うと、頭の中でどうすべきか思考を巡らせたが、全く考えがまとまらない。


「でも、僕は一度、ルフェルニアをフッたことになっている…。」


ユリウスは自分でそれを言って、絶望した。

ここ最近何度も同じループに陥っている。

もし、あのときちゃんと自覚していたのなら、と思わずにはいられない。

なぜ、ローズマリーはもっと早く訪れなかったのかと、見当違いな考えもしてしまうほどだ。


また、ユリウスはあの夜会のことを聞きつけた、母アンナから怒りの手紙を受け取っていた。要約すると、いつの間にルフェルニアを他の男性に取られたのか、婚約の時期を本人たちのタイミングに合わせようと思ったことが間違っていた、ということだった。

ユリウスの両親は病気のこともあっていたくルフェルニアを気に入っている。

ここで初めて、ユリウスは今まで両親が婚約のことで煩く行ってこない理由を理解したのだ。

そうならそうと早く言ってくれ、と無責任にも返信に書きたくなったが、そんなことを書いては領地から母アンナが飛んできて、それは物凄い形相で怒ることだろう。


ユリウスが困ったように眉を下げると、ベンジャミンは諭すように話しかけた。


「それはご自身の言葉で誠心誠意、お伝えすべきです。ルフェルニア嬢も、貴方にまっすぐ思いを伝えてくれたのでしょう?」


「それができたら苦労はしない。…ルフェを目の前にすると平常でいられないんだ。」


ユリウスはルフェルニアを心底すごいと思った。

好きな相手を眼の前にして、あんなにも真っ直ぐ思いを伝えるなど、どれほど緊張したことか。

ユリウスはルフェルニアのことを想って胸が痛んだ。


「兎にも角にも、早めの方が良いと思いますよ。」

「わかっている。」


ユリウスは気怠げに立ち上がると、執務机へと向う。

仕事をちゃんとしなければ、それこそ本当にルフェルニアに嫌われてしまう。


頭の片隅で今後の算段を立てながら、ユリウスは書類を捲った。

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