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「さて、ユリウス様。貴方がルフェルニアさんをフッた、というお話は本当なのかしら?」
ローズマリーは5年ほど前にユリウスの前でいじらしくしていた様子を全く思い出させないほど高飛車な様子でユリウスに話しかけた。
ユリウスはルフェルニアが座っていたところに座ると、煩わしそうにため息を吐いた。
「…別に、僕はルフェルニアと男女の関係になりたいわけじゃない。」
「本当に?」
「そんな負の感情で塗れた関係は望んでいない。もういいか?」
ユリウスは早く帰りたそうにソファから腰を浮かした。
今まではどこぞの令嬢がユリウスが好きでルフェルニアを虐めてみたり、どこぞの令息がユリウスのせいでフラれた腹いせに悪口を吹聴してみたり、全く持ってこの関係が絡むとユリウスにとってひとつも良いことはなかった。
「貴方は、純粋な好意だけをルフェルニアさんに向けていると仰るのですか?」
ユリウスはローズマリーの言葉に思わず口ごもった。
今まではそう思っていた、しかし、最近になってルフェルニアに対する汚い感情を自覚したばかりなのだ。
「純粋にルフェルニアさんを大事にしたいだけならば、それでいいでしょう。
そうではなく、大事なのに、独占したくなったり、嫉妬して困らせてしまったり、好意を抱いている相手をどうしてかめちゃくちゃにしてしまいたい!というその相反した思いこそが恋なのです!」
ローズマリーは立ち上がって拳を握った。
「そして、互いに恋心を持った者同士が共に過ごすことで、愛を育むのです!」
さながら演説のように言い切ったローズマリーに、ユリウスはらしくない、ぽかんとした表情を向ける。
「…めちゃくちゃにしてしまいたい…。」
ユリウスが呆然と呟くと、ローズマリーは力強く頷いた。
「そうです!他の男性と居るルフェルニアさんを見て、連れ去ってしまいたいと思ったり、有無を言わさず彼女を胸にかき抱いてしまいたくなったりするような衝動はないのですか!?」
これを聞いて、ユリウスはカッと顔を瞬時に赤くした。
両手の掌で顔を覆うと、膝の間に顔を埋めるような形で蹲ってしまう。
ユリウスはローズマリーがエスパーなのかと思った。
昨日、平常を保とうと努めたが、胸の奥底では、ギルバートと一緒に居るルフェルニアを見て、確かにそのような衝動があった。
ユリウスはそこで漸く、自分の感情を理解した。
ルフェルニアにドレスを贈ることも、
ふたりきりでケーキをつつくことも、
ルフェルニアの柔らかい腰に触れることも、
自分だけの特権だという独占欲と、そして不埒な思い。
多分、ユリウスは最初からルフェルニアが好きだった。
今までぴったりと横に座ることを“友人の距離”と言っていたが、いったいどの口が言うのだ、とユリウスは耳まで赤くなる。あんなのは、下心だ。
ユリウスはルフェルニアに大変な恩義があったので、今までどこかルフェルニアを神聖化していて、女性の枠組みから外したつもりでいた。しかし、ひとたび自覚をしたら、まるで思春期の男子のように挙動不審になってしまう。
ローズマリーはその様子のユリウスを見て、満足げにしたり顔を浮かべると、「それではごきげんよう」と綺麗なお辞儀を披露して静かに部屋を後にした。
_____
ルフェルニアはローズマリーが帰ったことを人伝に聞くと、応接室の施錠をしに戻った。
既にユリウスは居室に戻ったものだと思い、ノックもなしに扉を開けると、ユリウスが両ひざに顔をうずめる形で座っている。
(いったい、ローズマリー様は何を仰ったの?)
「ユリウス様…?大丈夫ですか…?」
今まで見たことがない格好で静止しているユリウスに、ルフェルニアが控えめに声をかけて肩を叩くと、ユリウスははじかれたようにルフェルニアの方を向いた。
その顔は真っ赤で、瞳は熱で潤んでいる。
ルフェルニアは初めて見るその表情に思わずきゅんとときめいてしまう。
一方のユリウスは、目の前にいるのがルフェルニアだとわかると、脱兎のごとく何も言わずに応接室から逃走してしまった。
(いったい、ローズマリー様は何を仰ったの!!?)
ルフェルニアはあまりのことにユリウスが逃走した方向を呆然と見つめることしかできなかった。
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