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「ルフェ!」


ユリウスがノックをしないなんて、相当至急の用事があったに違いない、と声をかけられたルフェルニアはソファから腰を上げようとした。

しかし、両手をローズマリーに握られたままだったため、不格好な姿勢でユリウスの方を向く。


「ルフェ、大丈夫?イルシーバ侯爵夫人に何を言われたの?」

「ローズマリー様とは…、少々お話をしていただけです。何か御用でしょうか?」


ルフェルニアは話しの内容をどう説明するか迷い、曖昧に答えた。


「君がイルシーバ侯爵夫人に呼び出されたと聞いて、急いで来たんだ。」


たったそれだけで?とルフェルニアは思ったが、ユリウスの過保護は今に始まったことではない。


ユリウスは2人に歩み寄ると、ルフェルニアの手首を取って、ローズマリーの手を振り払おうとしたが、思いのほかローズマリーの握る力が強く、手が外れない。


「イルシーバ侯爵夫人、どういうおつもりですか?」


ユリウスは先ほどまで一度もローズマリーに目をやらなかったが、ついに不機嫌そうにローズマリーを見た。


「我が家のお茶会にお誘いしていただけですわ。」


ローズマリーがツン、として答えるとユリウスは視線を鋭くした。


「またルフェを君たちの悪意に晒そうというのか。」

「わたくしも、過去の行いについては反省していますのよ?あのときはわたくしの方が幼稚だったのです。もうそのようなことは致しません。」


ローズマリーは漸くルフェルニアの手を離すと、ユリウスを真っ直ぐと見据えた。


「それよりもユリウス様。わたくしは今、衝撃的なことをルフェルニアさんからお聞きして、とても驚いているのです。」

「衝撃的なこと?」


怪訝な様子で聞き返すユリウスに、ルフェルニアは顔を青くした。

まさか、ルフェルニアがいるこの場であの話をするのではないな、とルフェルニアはぎょっとした表情でローズマリーを見る。


「ルフェルニアさん、貴女は退室いただいて良いわ。呼び出して悪かったわね。」


ローズマリーはそう言うと、ルフェルニアの耳元に口を寄せて「後は任せて安心してね」と言う。


(全然!安心できないのですが!)


ルフェルニアは顔を引きつらせるが、このままここにいて恥ずかしい思いをするのも居たたまれない。


「ルフェ、イルシーバ侯爵夫人は僕が帰しておくから、大丈夫。」


ルフェルニアはユリウスにも促されて、漸く退室を決意すると、会釈をしてから静かに扉を閉めた。

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