第35話 仙台駅前ダンジョン エントランス
仙台駅前ダンジョンの入口は混乱を極めていた。
パトカーや救急車、マスコミの車両が何台も停車し、人混みでごった返している。
パトランプの明滅が夜空をぶつ切りにしている。
クロガネとソラは人混みをかき分けて進んでいく。
8年前に東口のロータリーに突如として発生したのが仙台駅前ダンジョンだ。
ご丁寧に雨風のしのげる建屋と、立体駐車場をも備えている。
その建屋の前で、警察隊と大勢の配信者たちがもみ合っている。
「下がってください! 現在、ダンジョン入口は崩落事故のため通行できません!」
「いつになったら通れるんだよ! 中に仲間がいるんだ!」
「お兄ちゃんが帰ってこないの! 連絡もつかなくて!」
「落ち着いてください! いま重機の要請をしています! 到着次第、瓦礫の撤去作業を行います!」
まるで戦場の様相だ。
大声で叫ぶもの、泣きわめくもの、呆然と佇むもの、スマートフォンのカメラを向ける野次馬。そしてそれらを制する防護衣を着込んだ警察官。耳を刺す警笛がひっきりなしに鳴り響いている。
クロガネは警官隊の中に見知った顔を見つけ、そちらに足を向ける。
「ちょいと邪魔するぜ」
「ちょっ、一般人の立ち入りは禁止ですよ!」
「たしか交通安全課のヤマウチさんだよな? これから
「えっ、あっ、クロガネさん!?」
「そーゆーことだから、よろしくね!」
クロガネの巨体が、警官隊を割って進んでいく。
その後にソラが続き、建屋に入っていった。
クロガネは仙台警察署の主催する安全啓発イベントなどに何度も出演しているため、警察には多少顔が利くのだ。
規制線を越えて中に進むと、無数の岩塊で塞がれたダンジョンの入口があった。
スコップやツルハシを持った警察官が瓦礫の撤去を試みているが、ほとんど捗っていないようだ。ひとつひとつの岩が大きく、いちいち砕かなければ取り除けないらしい。
周辺にはバスケットボールほどの黒い球体――カメラドローンが飛び回っている。<運営>の操るカメラドローンは「撮ってほしくないときにばかり来る」ともっぱらの評判だが、どうやらこの惨状は
「とりあえず、このデカいのをなんとかしちまうか」
クロガネはひときわ大きい岩にがっしりと組み付く。
それはクロガネの巨体よりもなお大きく、両手を広げてやっと抱えられるほどの大きさだった。
「あ、あんた何をする気だ!?」
「この邪魔なのをどけるんだよ」
クロガネに気がついた警察官が止めにくる。
しかし、クロガネは意に介さず、呼吸を整えて全身に力を込めはじめた。
「危険です、やめてください! そもそも素手で岩を動かそうなんて――」
「はいはい、危ないのでみなさん下がっててくださいねー」
ソラが割って入り、クロガネの周囲から警察官を遠ざけていく。
自分よりひと回りもふた周りも小柄な少女に軽々と押しのけられ、警察官たちは手品でも見せられたかのように目を白黒させた。
そして、それ以上に驚くべき事態が、目の前で起きた。
「うぬぉぉぉぉおおおお……」
獣のような唸り声とともに、1トンは下らないであろう大岩が動いたのだ。
岩が揺れ動くたび、その周辺からパラパラと土砂が落ちる。
ぐらり、ぐらり、ぐらり、ぐらり。
大岩が何度も揺さぶられる。
落ちる土砂が増す。
「だっっっしゃあッッ!!」
咆哮。
周囲すべての音を塗りつぶす絶叫。
岩が持ち上がる。
巨漢の頭上に高々と持ち上げられる。
巨漢が背を反り、大岩を背後に叩きつける。
轟音。
地響き。
大岩が砕け散る。
土砂の山に姿を変える。
「ナイスバックドロップ!」
「どっちかっつうとジャーマンだな。で、どんなもんだ?」
「ばっちり。向こうが見えたよ」
「お、一個で済んだか。それじゃ行くか」
大岩のあった場所には、ぽっかりと黒い穴が開いていた。
そこへ二人が無造作に入っていく。
ぽかんと口を開け、目をしばたたかせる警察官たちがその背中を見送った。
去り際に、二人は一瞬振り返って片手を上げる。
「邪魔して悪かったな」
「お仕事がんばってね!」
警察の業務を邪魔するつもりはもちろんない。
あくまでも善良な市民の義務として、災害対応に協力したまでだ。
――怒られたときは、そう釈明しようと二人は考えていた。
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