第14話 生まれ変わり3 宇宙の終末

Ai Ai は夢のなかで亡くなった妻に生まれ変わりの話を聞きました。  

                    生まれ変わった先の先はこの宇宙の終末でした。遥か遥かの時間の果てで膨張し続けた宇宙は限界点を迎えて、いつしか収縮を始めました。太古の昔に、太陽系の地球から脱出して安息の地を求めて大宇宙各地に探索に出たノアという宇宙船がありました。宇宙船ノアの搭乗員の行為を契機に形成された宇宙政府の懸命の努力もむなしく、宇宙は収縮を続けました。太古に形成された宇宙政府は幾度も危機を迎えましたが宇宙に存在するものたちの努力によって存続し続けました。超新星爆発によって恒星を失った文明もありましたが宇宙政府の助けにより文明を存続し続けました。宇宙は膨張の果てに宇宙暦10の100乗年になって収縮を始めて、巨大な圧力になすすべなく、幾多の文明は収縮によって消滅しました。終末論は現実になりました。宇宙の歴史は些事の積み重ねでした。宇宙の永遠とも思える時間のなかで生命は興亡を繰り返しました。宇宙の些事である彼らの営みは一切を飲み込まれて無に帰します。マルチバースの平行世界は理論上は存在すると考えられていましたが、平行世界への移動手段は理論上は可能であっても、実際の方法を思いつくことは出来ませんでした。たとえ技術的に可能であったとしても、この宇宙の住人が現在のままで生存できるかは不明でした。Ai Ai と私は収縮し続ける終末の宇宙のなかで、宇宙政府から選抜された科学者として、この宇宙の終わりに直面しました。ミロクは宇宙の救済に時間を超え空間を超えて、超生命体とともに活動してきましたが、宇宙の収縮すなわち宇宙の終末に打つ手はありませんでした。ミロクはこの宇宙により生み出された存在であって、この宇宙の意思には逆らうことはできませんでした。宇宙は収縮の限界点を迎えて、宇宙にある物質と時空は無次元の特異点に収束してビッグクランチとなって、再びビッグバンを起こして新たな宇宙を生み出そうとしていました。新たな宇宙にも生命が誕生して新たな文明が生まれて、チャレンジが繰り返されるのだろう。宇宙中から集まった文学者たちが宇宙の終わりについての詩や物語を造りだしました。この宇宙文明史に残るような作品が数多く生まれましたが、宇宙の消滅によりそのすべても消滅します。そのことをわかっていながら書かざるを得ない衝動に突き動かされて、宇宙最高の文学が数多く生まれました。宇宙文明の最後にして最高の花を咲こうとしていました。しかし、一切を宇宙の収縮は飲み込んでいきました。点在する宇宙文明からの交信がひとつひとつ途絶えて、宇宙政府の各文明の代表者が減って行きました。おのおのが自らの文明の消滅とともに死を迎えることを選択しました。周辺の宇宙から収縮により膨大なエネルギーによってひとつひとつの惑星はもちろん、それぞれの属する銀河は消滅していきました。収縮し続ける宇宙から逃れて宇宙政府は光速の宇宙船で移動し続けました。私とAi Ai は宇宙船のなかで消滅していく宇宙を観測し続けました。この観測が何のために成されているのかを言い出すものは誰もいませんでした。                私は宇宙船のなかで眠っていて夢を見ました。Ai Ai と私は冷たい渓流のなかで鱒となって、上流から流されてくる川虫を追い続けました。

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