雨上がりは君のもとへ
小林汐希
プロローグ これを…やってほしいというの?
私の高校一年目の生活も終りが見えてきた二月の末のこと、場所は放課後の生徒会室。生徒会の委員でもない自分には馴染みのない場所でもあるし、ここに呼び出されるのは、何かをやらかした時だと思っているから、正直なところあまり居心地がいいものではなくて身構えてしまう。
「
生徒会長は申し訳無さそうに私に頭を下げる。
ここ、都立
そんな会長が一生徒である私に頭を下げるなんて、普通はありえない。
「悪いことをして呼び出されたのではないとはホッとしましたけれど、私でなにか役に立つことがあるんでしょうか?」
生徒会長はおもむろに、起動していたノートパソコンの向きを変えて私にも画面が見えるようにしてくれた。
「この動画を見て感想を聞かせて貰えませんか?」
「……これは……」
数分間の動画を見終わって、それ以上の言葉を続けることができなくなった私。
「この二人のどちらかは尾崎さんのお母さんですよね、ここに出ているのは……」
「は、はい……。昔の写真で見ました。髪の毛を両脇に分けているのがそうです……」
「やっぱりそうでしたか。いや、責めようって話ではありません。来年度は南桜高校の開校五十周年の記念の年になります。この秋の
「そうなんですか……」
南桜高校の生徒会システムは学年度でバッサリ入れ替わるシステムじゃない。前年度の冬に選挙があって、そこで次の生徒会長が決まって、春までに新しい次年度の執行部が徐々に固まっていく。
その話を前会長から引き継いで、どうしようかと悩んでしまった新会長も気の毒だとは思う。
「そうしたら、うちの祖父から『マジカルサイエンス部』という部活が昔あった。いろいろと活動記録も残っているはずだから見てみろと言われましてね」
そうか。一度定年退職をされ、今は非常勤になっているけれど、生徒会長のお祖父さんでもある森田先生は現役時代からこの学校の先生だったと聞いていたっけ。
「僕も祖父からこれを見せられたとき、今の尾崎さんと同じように衝撃を受けました。こんな実績を持つ部活を期間限定で復活させたら、今なら何ができるだろう……と」
机の上の活動記録や昔の卒業アルバムが横に積み上げてあることからも、単なる思い付きではなく、いろいろなところに話を聞いたり自分で調べた上で私に白羽の矢が立ったということになるんだろう。
「偶然にも、やるならメンバーが揃っている今しかないと祖父も笑っていました」
「つまり、今度新二年生になる私たちが、新しいというか、この部活を復活させて、今年の秋の桜花祭までにこれだけの出し物の準備を間に合わせる事ができると思ってのことですか?」
「手っ取り早く言ってしまうと、そういうことの検討をいただきたいというお願いになります」
森田生徒会長の苦しい立場の状況も理解はできる。見せてもらえた資料があるとは言え、この半年強の時間でどれだけのことができるか。
そもそも、私の一存だけですぐに答えが出せるものではないことも事実だ。
「事情はわかりました。少し時間をもらってもいいですか? 私一人ではこれだけのものを決定することはできないのと、部活動規定の五人は現状では揃えられません」
「まだ学年末ですから、新年度までに答えが出れば大丈夫です。無理なら無理で別のことを考えますからね。あと最低部員が五人という規定ですが、こちらからの無理やりのお願いなので、生徒会側でも対応を考えます」
「分かりました」
すっかり校舎の中から生徒たちの姿は消えていて、私は一人家路へと急いだ。
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