第117話 偽勇者

前話ですが古いやつをコピーして上書きしまったようだったので、修正しました。

手元のメモに書く→サイトに登録→サイトで修正(メモに反映させず)→メモを修正→サイトにコピー→ウボァ

 誤字も大抵こんな感じです(直しても気づかず元に戻ってる)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「でもトイレを作るにしても材料をどうやってここまで持ってくればいいんだ?」


「秘密の入口を作ったらその下まで運んどいてくれれば、俺が上に持っていくよ」


「で、一番重要な話が残ってるんだが……」


「またプレステとかVtuberとかいったらどうなるかわかってるよな?」


「ちげえよ。……武藤、お前は一体何者なんだ?」


 その言葉に武藤以外が全員一瞬固まり、そして武藤を見た。

 

「ただの陰キャだが?」


「ただの陰キャはアイテムボックスなんて持ってないし、そんな美人の彼女を大量に侍らせたりしないんだが?」


「……美人の彼女がいっぱいいる陰キャ?」


「俺はそれを陰キャとは認めねえ!!」


 武藤の言葉に光瀬が叫ぶ。

 

「た、多分だけど、武藤君は異世界で勇者やって魔王を倒して帰ってきたんじゃないかな?」


 恐る恐る手を上げて陰キャ女子の佐藤がそう呟く。

 

「さすがにそれはラノベの読みすぎだと思うぞ? なあ、武――おい、なんで目を逸らす?」


「まさかお前……」


 あまりにぴたりと当てられて武藤は気まずくて視線を泳がせていた。

 

「やっぱり!! 異世界ものの定番だよね!!」


 そう言って佐藤は隣にいた岩重と手を取りあってはしゃぐ。

 

「好きで呼ばれたわけじゃないんだよ!! 巻き込まれだよ!! 間違って呼び出されたあげく役にたたないからって捨てられて、命がけで修行してたら勇者死んだから今日からお前勇者なって……」


「あーよくあるパターンね」


「大体ざまあするやつね。でも勇者死んじゃったって、それ大丈夫だったの?」


「大丈夫なわけあるか!! 両手じゃ足りんほど死にかけたわ!!」


 あまりに切実な話に周りも少し気の毒になってきていた。特に百合はそれを知っているから尚のことである。

 

「ごめんなさい武。私のせいで……」


「せいじゃないだろ。百合のせいじゃなくて百合の為に戦ったんだ。自分のせいなんて言うな」


「山本さんの為? まさか!? 聖女枠!?」


「……なんでわかんの?」


 またしてもぴたりと当てられ武藤も驚愕する。

 

「テンプレだから!!」


「そうか……まあ、そのテンプレ通りに百合を助ける為に魔王と戦ったんだよ」


「武は勇者の力があるわけじゃないのに、勇者じゃないと倒せないはずの魔王を倒したの」


「チートだ!! 絶対チートを貰ったんでしょ!?」


「……何にもなかった」


「え?」


「何一つスキルも魔法も貰えなかった」


「……じゃあどうやって倒したの?」


「修行したんだよ!! 魔王を倒せるくらいになるまで!! 両手両足の指じゃ足りんくらい死にかけながらな!!」


「あー昭和の熱血修行パターンだったかあ」


「今は努力や根性なんて流行らないからねえ」


 そういって佐藤と岩重の二人は納得したかのようにうんうんと頷いていた。

 

「修行とか簡単にいうけどな。お前ら生きたまま内臓を喰われたことあるか?」


「え?」


「喰われながら喰ってるやつを殺す。そして回復させる。弱いうちはそんなことを繰り返してたなあ」


 武藤が遠い目をする。あまりの辛い経験に現実から逃避しかけているのだ。

 

「腕を食われて腕ごと竜の頭を内側から吹き飛ばしたりしたなあ。あまりに回復薬や魔法で治しすぎて、治し方を体で覚えちまうくらいには、体を吹き飛ばしてたなあ。主に自分の」 


 格上相手の戦法は主に自爆特攻である。まだ未熟な頃は敵があまりに固すぎて体外からの攻撃が効かない場合、最終手段として自爆攻撃を行っていた。いうなればHPが1残るメガンテである。限界を超える力を生み出し、腕や足を犠牲にダメージを与えてから自分を回復させる。それを繰り返すことでこの男は魔王すら倒したのだ。

 

「ちなみにレベルとかステータスとかいう概念ないからな?」


「え?」


「得られるのはあくまで技術と経験だから。相手を倒したら簡単に強くなるとかそんなのないから」


 実際はレベルのようなものは存在していた。倒した相手が魔力を持っていた場合に限り、それが倒したものの魂の器を拡張させるのだ。それは魔力を操作する力であり、オーラの許容量だったりと様々な効果があるが、見ることも確認することもできない為、あまり知られていない。武藤の師匠を含め、経験上強くなったと感じる者が数名いたくらいである。


 ちなみに武藤は竜を殺しまくり、魔王すら倒している為、異世界の歴代最強勇者よりもはるかに強くなっていた。異世界で女神に付与されたスキル等は基本的に肉体に宿る為、転移で戻らない限り世界の壁を超えることができないが、魂そのものは超えることができる。そして武藤の力は魂に有するものなので、武藤はある意味最強の力の素質を持ったまま地球に戻ってきたのである。そして聖女から付与された祝福もまた魂に付与されるものであった為、こちらの世界でもそれが影響していたのだった。

 

「お前よくそれで魔王に喧嘩売ったな」


 明確に強くなったかどうかわからず、努力の成果が己の実感のみ。その努力も命がけ。そんな状態で勝てるかわからない相手に喧嘩を売るなんて正気の沙汰ではない。


「同郷の女の子が帰りたいって泣いてるんだぞ? 助けるだろ普通」


 元々、武藤としては同郷なだけで百合はどうでもいい存在だった。だから手伝うつもりもなかったのだが、ある日の昼下がり、うとうとと居眠りしている百合が帰りたいと涙を流している姿を見てしまったのである。男が命を懸けるのにはそれで十分だと、武藤はそれだけで魔王に喧嘩を売ったのである。

 

「やっぱお前はすげえわ」


「いや、勇者より勇者してるだろお前」


 気が付けば武藤は隣にいた百合に抱き着かれていた。当時を思い出したのか百合の瞳には涙が浮かんでいる。

 

「わかるかい? 武君は力があったから勇者のまねごとをしたわけじゃないんだ。力もないのに百合の為に勇者の代わりをせざるを得なかったんだ。ただ、同郷の女の子というだけで全く赤の他人の百合の為に。どうだい? 世界一いい男だろう?」


 顔を真っ赤にしている皇達3人組と陰キャ女子2人に香苗が勝ち誇ったような顔で告げた。

 

「ま、まあそこいらの顔だけの凡愚よりはマシですわね」


「山本さんいいなあ」


「いいよなあ」


「貴方達!?」


 皇の隣にいた陽キャグループの2人、松井と加賀美は強がる皇には全く賛同せず、百合に対して羨ましそうな視線を向けていた。

 

「武藤君主人公だあ」


「山本さんはヒロインだねえ」


 岩重と佐藤は何故かわかったような顔でうんうんと頷いていた。

 

「おや? それをいうなら吉田君と光瀬君も君達2人にとっては主人公じゃないのかい?」


「「!?」」


「いくら同じグループとはいえ、恋人でもないのに命がけで守ってくれるなんてまさに主人公じゃないか。もちろん君達はヒロインだねえ」


 香苗のその言葉に武藤以外の陰キャグループの顔は真っ赤だった。

 

「あ、あの時は夢中だったから」


「そうそう、ただ助けなきゃって。武藤みたいに魔王相手に挑むなんてマネは俺達にはできないって」


「相手が魔王かどうかは関係ないよ。ただ他人の為に自分より強い相手に恐れず向かっていける。それが主人公であり勇者の資質なんじゃないかねえ」

 

「そうだね。それだけで貴方達は武藤の友達だってよくわかるよ」


「やっぱり似た者は集まるのでしょうか?」


 香苗の言葉に朝陽と月夜も賛同する。

 

「そこで不思議なのが吉田が勇者に選ばれたことさ」


「俺が!?」


「ああ、いや、君じゃない。百合の幼馴染の吉田弘という男だ。その男は本当の勇者として呼ばれたんだが……百合の話だとあっけなく死んだらしい」


「……勇者なのに?」


「なんでもいろんな女性に手を出しまくった挙句に結局、魔物に殺されたという話だ。ちなみに手を出した女性には人妻や恋人のいる女性も多かったとか」


「あーよくあるパターンだよねえ」


「武藤君にざまあされるまえに死んじゃったのか」


 やはりその辺りに理解のある岩重と佐藤はうんうんと頷いていた。


「ざまあというのが私はよくわからないが、あいつが死ななければそもそも武君が表舞台に立つことはなかっただろうから、死んで正解だったというか死んだことで初めて異世界に貢献できたのではないかねえ」


 百合に無理やりいい寄る元勇者を知っている香苗としては、未だに元勇者の吉田に思うところがあるようでかなり辛辣な物言いであった。

 

「女神が求める資質みたいなものだけじゃ、まともな勇者になるかどうかはわからないってことなんじゃない?」


「スキルとかいうものの相性みたいなものもあるのでしょうか?」


 そこから勇者とはという議題にすり替わり各々が勇者について議論をし始めた。

 



「はいはい、そこまで。勇者の話はあとでいくらでもできるから、まずはこれからの話をしよう」


 武藤が手を叩き、議論を止める。

 

「結局通路はどうする?」


「俺達二人だけならいいんじゃないか?」


「じゃあ、滑り台作るから一度降りてロープで登れるか試してみてくれ」


「わかった」


 その後、武藤は上から見ると垂直に近い角度でつるつるに滑る高さ30mはある滑り台を作ったが、万一を考えて上る場所は別の所に作った。只の崖であるが、よくみれば少しづつ足場がある。だが上下の間隔がかなりある為、ボルダリング世界チャンピオンでもそうそう登れないだろう。だがロープがあれば素人でも上ることができる。しかしロープで崖を上るというのはほぼ腕力のみで上るということである。元々体格がよく腕力のある吉田は何とか登れたが、貧弱な光瀬には相当きついらしく、かなり苦労した末なんとか上ることができた。

 本当は滑車と板を使って人力でのエレベーターでも作ろうかと思っていた武藤だが、吉田達以外はかか弱い女性である。男どもの為に上から引っ張るなんてそんな力仕事はさせられないと無情にもその案は脳内で却下されていたのだった。

 

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