第37話 一、二階の戦い
もしこの光景を第三者が目の当たりにしたのなら、なんて酷い有り様と口をこぼすだろう。
実に醜い景色だ。
ぶつかり合い、せめぎ合い、己の意思を通さんと相手を踏み潰す。
その一、二階層は策略も知能も感じられない。正真正銘、力のみの衝突だった。
誰もがそれぞれの人生を歩み、自分だけの過去を築き上げてきた。
例え、崩壊した世界であろうと、微かに残る人の温もりを探しては集め寄り添って思い出を作ってきた。
そこには苦しみも絶望もあったはずだ。だがそれでも生きてきた。未来に希望はなくとも、世界に愛情がなくとも、最期に笑えるようにと。
皆、平穏を望んでいたはずだ。だがこれはどうだ。
瓦礫の塔の中で同族を殺しまたは殺される。
敵であろうと同じ人間なはずなのに。
環境が違えば一生を共にする友人にもなれただろうに。
残酷な事にこの世界では殺し合う仲だった。
首を絞め、傷ついた手で殴り、折れた足で蹴る。
全身を武器に変え、闘争する人間達。
見ろ。これが美しい動機で醜い事を成す生物だ。
会いたい最愛の人もいたはずだ。
抱きしめたい子供もいたはずだ。
帰るべき居場所もあったはずだ。
その全てを憤怒に変えその身を勝利へと捧げる。
拳に祈りを。声には願いを。全ては敵を討つために。
死を以て、我らが勝利を示す。
「────はあ、は……あ。っ、勝った、ぜ。……ドグ。後は、がんば……れ、よ……」
最後に息を残した者がそう呟く。
もう立ち上がる事はおろか、息も数秒後には止まり瞼も再び開く事はないが、堂々とその勝利を告げた。
瓦礫の塔。一、二階、勝利。
生存者、無し。
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