第9話 追放した人がヒロイン 起
「アレン、今日限りで、あなたをパーティーから追放します」
いつものダンジョン帰り。
ボクは唐突に告げられた。
「え、何言ってるんだよ、エミリア。
何かの冗談でしょ?」
「冗談じゃ、ありません。
このパーティーに、あなたはいてはいけないんです」
可憐な顔立ちに決意の色を滲ませて、エミリアはボクに告げる。
唇をキュッと結び、スカートの端を握りしめていた。
ブロンドの美しい髪が、風に揺れる。
「他の二人も、そう思ってるの?」
そう言って、ボクはエミリアの後ろに立つ二人を見る。
右側にいるのがシャーロット。
透き通るような青い髪に、柔和な顔立ちの僧侶だ。
そして左側にいるのはミラ。
燃えるような赤毛に、くっきりした目鼻が印象的な魔術師。
「……うん。
私もエミリアと同じ意見。
アレンには、このパーティーにいてほしくないの」
「あたしも同じだ。
昔、助けてくれてありがとな。
でももう、一緒にはやってけない」
シャーロットとミラも、ボクの追放に賛成らしい。
ずっと四人で、楽しくやっていけると思っていたのに……。
どうやらそう思っていたのは、ボクだけだったみたいだ。
「理由を、聞いてもいいかな?」
「理由、ですか……」
エミリアがうつむく。
そしてそのまま、ボクとは目を合わせようとしないで、言った。
「あなたの、性格がダメです。
優しすぎる。
甘いと言ってもいい。
私達にとっては、それが毒になるんです」
……甘い、か。
確かにその自覚はある。
昔から、他人に厳しくするのは苦手だ。
彼女達に対しても、強く何かを言ったりしたことはなかった。
それが人間関係をうまく維持する方法だと思っていたけど。
ともすれば、本音で話していないように見えるかもしれない。
優柔不断ともいえるだろうか。
そんなボクの性格が、気に入らなかったのか。
「どこが悪いか具体的に言ってくれたら、直す努力をする。
それでもダメかな?」
「性格というのは、そう簡単に変えられるものではないでしょう。
それにアレンのその甘さは、見方を変えれば長所ともいえます。
たまたま、私達と合わなかっただけ。
だから、そのままでいて下さい」
つまり、取り付く島はないということか。
「……でも、ボクがいなくて、クエストをこなせるの?」
「問題ありません。
あなたがいなくても、私達は十分やっていけます。
この二人も実力をつけましたし、私は聖騎士です。
守りに長けたスキルも多い。
二人のところに、魔物は絶対に通しません」
「守ってるだけじゃ、勝てないよ?」
「守っていれば、ミラの魔術でせん滅できます」
「ボクがいた方が、安定すると思うんだけど……」
「……確かに、攻撃面に関しては少し落ちるかもしれません。
でもそれよりも、あなたがパーティーにいることの方が、私たちにとって嫌なんです」
「……そっか」
ボクを睨みつける3人を見ながら、昔のことを思い出す。
出会った時からボクの方が冒険者としてのキャリアが長かったから、3人にいろいろ教えたりもした。
もしかしたら、それも気に入らなかったのかもしれない。
良かれと思ってアドバイスしていたつもりだったけど、彼女達は上からものを言われるように感じてただろうか。
つまるところ。
みんな一人前になったから、教師面する先輩は必要ないってことか。
加えて性格も合わないとなると、切り捨てたくなるのも分かる。
女3人に男1人というのも、よくないのかもしれない。
「わかった。仕方がないね……」
ボクはあきらめて、従うことにした。
「じゃあ、三人とも身体に気を付けて。
ダンジョンに挑むときは、しっかり準備をするようにね」
回れ右して、逆方向に歩き出す。
悲しくて涙が出そうだ。
また、一人に戻ってしまった。
押し寄せる過去の記憶が、心を引き裂いていく。
最後にもう一度だけ。
名残惜しくなって、振り返る。
もうとっくに歩き去ったものだと思っていたら、三人はまだ、こちらを見つめていた。
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