第17話 みんなで最高の舞台に
この時代に飛ばされるまでの5年間、俺はバスケットボールに触れてすらこなかった。なのに、自然と動けた。
体にあるのは、右膝の痛みではなく心地いい疲れ。
「じゃあ今日の練習はこれまでだ。解散」
「はい、ありがとうございました!」
俺たちが声を合わせて、練習を締めくくる。11月で、しかも日が暮れた後という肌寒い中だが、みんな汗だくになっていた。
「みんな、ちゃんと汗拭いてね。風邪ひいたらあかんよ」
下鴨が声を飛ばしながら、部員たちにタオルを配っている。
自宅が離れていたりする部員は、切り上げて体育館を去っていくが、中には自主練で残る部員もいる。
そして、俺もそのひとりだ。
「高場くん、タオルいる? 汗びっしりやで」
タオルを山のように抱えた下鴨が、こちらに近寄ってくる。
だが俺は、他の人からの視線に気づいていた。
「ああ、後で使うから、適当なところに置いておいてよ。俺はちょっと残るから」
俺に視線を向けてくるのは、青海だ。練習は終わったというのに、片手にボールを抱えている。
俺は青海のほうに歩み寄っていく。
「キャプテンなら、わかってるよな」
「ああ、誰よりも練習して誰よりも強くないと、だろ」
「そうや。ひとりでシュート練習、なんて寂しいやろし、付き合ってあげるわ」
青海は、挑戦的な目を俺に向ける。
心地いい疲労感は、すでにどこかに消えていた。
「1ON1、やるか。ついでに、次の日曜の練習試合、相手のポイントガードのドリブル研究したから、成果見せたるで」
「練習試合の相手?」
今朝、5年後の未来から飛ばされてきた俺には、スケジュールがさっぱりだ。後で部の予定を確認しておかないと。
「ああ。高瀬川高校とのやつや。ウインターカップの予選の映像見たから」
「ああ、そういえば青海、そういうの得意だったよな。頼む」
「どうして昔を懐かしんどるような言い方なん? まったりしてる暇ないよ」
「青海ちゃん、タオルどないするー?」
下鴨が声を飛ばしてくる。
「紅葉ちゃん、私も後で拭いて自分で片付けとくから、適当に置いといてー。先に帰ってもええよー」
青海が甘えた声を出す。
「いいや、私も見ていく。青海ちゃんの活躍するとこ見ていきたいし、ええ?」
「ほんま? ありがとー。私も頑張る」
青海が両手を大きく振って、喜びをアピール。
本当にこいつ、紅葉と仲がいい。
「さてと、兄さんも見ていることだし、さっそく始めますか」
手を振り終えて、再び俺と対峙した青海。さっきの挑戦的な声に戻っていた。
「おーい、一応俺も見ているけど気にすんなー。自分らしくプレーしろよ」
八孝の声が響く。
「はい!」
とはいえ、俺は懐かしい緊張感でいっぱいだった。
自主練であれ、もし俺が気の抜けたプレーをしようものなら、すぐに八孝に煽られる。
八孝はいつもそうだ。
練習が終わっても、最後の部員が帰るまで体育館に残る。
さすがに、完全下校時間になれば全員を帰らせるが。
「じゃあ、センターサークルまでどうぞ」
青海に誘われるまま、俺はコートの真ん中へと向かう。
俺は青海の前で腰を低くしてスタンバイする。
「いつでもどうぞ」
「はいはい」
青海はドリブルを開始。俺と間合いを詰めてくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます