第5話 絵師系VTuber「黒縁ぐらす」の場合
▽
彼女の名前は、
「
年齢は23歳。大学を卒業して中小企業で
副業といっても月の収入は1万円あれば上々なほう。イラスト依頼サービスを経由して個人からのイラスト制作依頼を受けて、趣味程度にこなしていた。
昔から、表現者として生きていくのが夢だったのだ。
「ああああーー! ぐらす氏が今月納品した絵の子のおっぺぇ、すこだぁ……!」
退勤後、家でイラストを描いていると、Discordから絵描き友達、『愚民ちゃん』の声が聞こえた。
「せやろ〜〜?」
「ほんとだ。垂れ乳えっろい……。誰これ? オリキャラ? 個人V?」
もう一人の友達、『ミゾ氏』が訊ねてきた。
「skebで依頼くれた個人Vさん。配信前の扉絵にするんだって。こんどコラボもする予定〜〜」
「そうなんだ! えへへ……かわいいね……」と、愚民ちゃん。
「こんなエッッッな子と話せるんなら、ワイもVTuberやろうかなぁ。LIVE2Dって簡単?」と、ミゾ氏。
オンラインになっているのは、学生時代からの友人である女性絵師二人だ。
学生時代といっても学校が一緒というわけではなく、Twitterで知り合い、オフ会を通じて仲良くなった仲間だった。
「LIVE2D独学でもそこそこできるよー。てか超やってほしい。一緒に作業配信しよーよ」
「えーこんどやってみよー」ゲームのプレイ音を流しながらミゾ氏が言った。
「ってか次のセッションいつやる!? 触ってみたいTRPGのシステムあってさあ!」と愚民ちゃんが話題を変えた。
黒塚有子は、子どもの頃からオタクだった。
仲間と実況者の配信を見たり、推しの歌い手のライブに行ったり、仲良くお絵描きをしていたり、TRPGをしたりするのが好きだった。
社会人になってからも毎日といっていいほど作業通話をしていて、彼女たちと話しながら絵を描くのが日課だった。
仲間とじゃれあうのは楽しかった。
「セッションな〜〜。やりてーんだけど平日は仕事と配信と趣味絵で忙しいしな〜〜」
黒塚有子はペンタブを走らせる手を止めてスマホでカレンダーをチェックした。
「土日も絵の依頼が溜まってるんだよな今月〜〜。珍しく依頼多くてな〜〜」
「おいおい売れてんなぁ、ぐらすちゃん先生ぇ! メルカリでサイン売ろうぜ!」と、愚民ちゃんが机をバンバン叩く。
「好調いいなー。ワイは閑古鳥が鳴いてるよぅ。しくしく」と、ミゾ氏のゲーム音が続く。
「くっそが〜〜。好きなことを仕事にしたいよ〜〜会社やめて〜〜〜〜っ!」
喚きながら黒塚有子は趣味絵の作画を再開しようとして、ふと、時間に気がついた。
「やべ、もうこんな時間。配信しなきゃだ。ごめん、また今度〜〜」
「おつおつぽよぽよー」とミゾ氏。
「配信がんばー! スパチャで焼肉奢ってくれやーー!」と、愚民ちゃん。
「草。底辺Vだけど貢がれたすぎワロタ。じゃあね」
くだらない応酬で笑い合ってDiscordから退室する。
「……こほん。あーあー……」
配信用のOBSを起動して、事前に立てておいた予約枠から配信を開始する。
「おつぐらす〜〜。やあやあ君たち〜〜。ぐらす先生だよ〜〜元気かえ〜〜!」
同時接続者は80名。
チャンネル登録者は1,800人。
黒縁ぐらすは、プロ化を夢見る数多の一般人の一人だった。
──ある日、TwitterのDMに、有名ゲーム会社から大量のイラスト制作依頼が届くまでは。
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第5話をお読みいただきありがとうございます。
いまの時代、SNSをやっていると突然の転機が訪れますよね。
このエピソードのテーマは「好きなことで生きていく」で、書いていけたらと思っています……。
毎日のお仕事と執筆の励みにしたく、、
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