第5話 絵師系VTuber「黒縁ぐらす」の場合



 彼女の名前は、黒塚有子くろづか ゆうこ

 「黒縁くろぶちぐらす」という名義で活動しているVTuberだ。


 年齢は23歳。大学を卒業して中小企業でSEシステム・エンジニアをしながら、副業でイラストレーターをしていた。

 副業といっても月の収入は1万円あれば上々なほう。イラスト依頼サービスを経由して個人からのイラスト制作依頼を受けて、趣味程度にこなしていた。


 昔から、表現者として生きていくのが夢だったのだ。


「ああああーー! ぐらす氏が今月納品した絵の子のおっぺぇ、すこだぁ……!」

 退勤後、家でイラストを描いていると、Discordから絵描き友達、『愚民ちゃん』の声が聞こえた。

「せやろ〜〜?」

「ほんとだ。垂れ乳えっろい……。誰これ? オリキャラ? 個人V?」

 もう一人の友達、『ミゾ氏』が訊ねてきた。

「skebで依頼くれた個人Vさん。配信前の扉絵にするんだって。こんどコラボもする予定〜〜」

「そうなんだ! えへへ……かわいいね……」と、愚民ちゃん。

「こんなエッッッな子と話せるんなら、ワイもVTuberやろうかなぁ。LIVE2Dって簡単?」と、ミゾ氏。

 オンラインになっているのは、学生時代からの友人である女性絵師二人だ。

 学生時代といっても学校が一緒というわけではなく、Twitterで知り合い、オフ会を通じて仲良くなった仲間だった。

「LIVE2D独学でもそこそこできるよー。てか超やってほしい。一緒に作業配信しよーよ」

「えーこんどやってみよー」ゲームのプレイ音を流しながらミゾ氏が言った。

「ってか次のセッションいつやる!? 触ってみたいTRPGのシステムあってさあ!」と愚民ちゃんが話題を変えた。

 黒塚有子は、子どもの頃からオタクだった。

 仲間と実況者の配信を見たり、推しの歌い手のライブに行ったり、仲良くお絵描きをしていたり、TRPGをしたりするのが好きだった。

 社会人になってからも毎日といっていいほど作業通話をしていて、彼女たちと話しながら絵を描くのが日課だった。

 仲間とじゃれあうのは楽しかった。

「セッションな〜〜。やりてーんだけど平日は仕事と配信と趣味絵で忙しいしな〜〜」

 黒塚有子はペンタブを走らせる手を止めてスマホでカレンダーをチェックした。

「土日も絵の依頼が溜まってるんだよな今月〜〜。珍しく依頼多くてな〜〜」

「おいおい売れてんなぁ、ぐらすちゃん先生ぇ! メルカリでサイン売ろうぜ!」と、愚民ちゃんが机をバンバン叩く。

「好調いいなー。ワイは閑古鳥が鳴いてるよぅ。しくしく」と、ミゾ氏のゲーム音が続く。

「くっそが〜〜。好きなことを仕事にしたいよ〜〜会社やめて〜〜〜〜っ!」

 喚きながら黒塚有子は趣味絵の作画を再開しようとして、ふと、時間に気がついた。

「やべ、もうこんな時間。配信しなきゃだ。ごめん、また今度〜〜」

「おつおつぽよぽよー」とミゾ氏。

「配信がんばー! スパチャで焼肉奢ってくれやーー!」と、愚民ちゃん。

「草。底辺Vだけど貢がれたすぎワロタ。じゃあね」

 くだらない応酬で笑い合ってDiscordから退室する。

「……こほん。あーあー……」

 配信用のOBSを起動して、事前に立てておいた予約枠から配信を開始する。


「おつぐらす〜〜。やあやあ君たち〜〜。ぐらす先生だよ〜〜元気かえ〜〜!」


 同時接続者は80名。

 チャンネル登録者は1,800人。

 黒縁ぐらすは、プロ化を夢見る数多の一般人の一人だった。


 ──ある日、TwitterのDMに、有名ゲーム会社から大量のイラスト制作依頼が届くまでは。




――――――――――――――――



 第5話をお読みいただきありがとうございます。


 いまの時代、SNSをやっていると突然の転機が訪れますよね。

 このエピソードのテーマは「好きなことで生きていく」で、書いていけたらと思っています……。


 毎日のお仕事と執筆の励みにしたく、、

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