第414話 アメリカの終焉(2)
「もう、何もかも終わりなのか・・・」
無能なフーヴァーの後を受けて大統領に就任し、ニューディール政策によってNY株大暴落から経済を立て直した。欧州大戦には参加せず、軍需関連物資の輸出でアメリカの貿易黒字は過去最高額を毎年更新した。
そして、欧州大戦が終わり、あとは日本とEATO諸国を核によって屈服させればアジアはアメリカの物になるはずだった。斜陽のヨーロッパは、その内従えることが出来る。そうすれば20世紀と21世紀、いや未来永劫この地球はアメリカの物だったはずだ。それなのに、いったい何を間違えたというのだ。
ルーズベルト大統領は地下壕執務室のテーブルに両手の拳をたたきつける。それを閣僚達は冷めた目で見下ろしていた。
ジリリリーン
長い沈黙の後、突然内線電話が鳴り始めた。一瞬、例の老人達からの電話かと思いルーズベルトの心臓は止まりそうになったのだが、秘書官室からの電話だった。
「大統領。デモ隊が暴徒化して、警備部隊と銃撃戦になっています!」
その報告を聞いたルーズベルトは“ああ、またか”くらいにしか思わなかった。ここ最近は連日のように食料配給を増やせというデモが発生している。そして、時々警備部隊と小競り合いが起こっていたのだ。
しかしこの日のデモ隊は、今までのものとは明らかに異なっていた。
「アメリカの中枢は共産主義者に乗っ取られている!私は国務省と大統領府に浸透している共産主義者の名簿を持っているのだ!共産主義者どもを吊せ!!」
このデモ隊を率いているのは、海兵隊士官のジョセフ・マッカーシーだ。彼はアメリカ軍海兵隊の大尉として、日米開戦時フィリピンに配属されていた。そして日本軍の捕虜となり、他の海兵隊員と共にアメリカに送還されたのだ。その後アメリカ本土で海兵隊の立て直しに従事していたのだが、あるとき、信じられない資料を発見してしまう。
『政権中枢の共産主義汚染報告書』
その報告書には、ルーズベルトをはじめとしてハル国務長官などの政府高官および民主党の重鎮たちが、国際コミンテルンの指導の下で共産主義に汚染されていると書かれていた。
そしてこの日米戦争の真の目的は、日本とロシアを打ち倒しソ連の復活を実現するためだとあったのだ。
さらにその報告書を裏付ける出来事がイギリスで発生した。コミンテルンのスパイと書かれていたイギリス庶民院の議員が逮捕されたのだ。
この報告書には、マッカーサーの命令で極秘に内偵調査が始まったとある。そして、それを察知した政権中枢が、あえてマッカーサーを戦死させたと結論づけていた。
その資料を見たマッカーシーは、めまいがするほどの怒りを覚えた。自分自身が忠誠を誓い、多くの戦友達が命をかけた祖国が共産主義者どもに支配されていたのだ。
※ジョセフ・マッカーシー 史実では1947年に上院議員に当選。苛烈な共産主義者告発(いわゆるアカ狩り)を行った。
そして、海兵隊の仲間達を集めて大規模なデモを実施した。秘密裏に武器と弾薬を用意してこの日に備えたのだ。大統領達共産主義者を吊し、愛するアメリカを救うために。
大統領府の周りでは、激しい銃撃戦が繰り広げられていた。デモ隊、いや、もう既に革命軍と言って良い規模にふくれあがった民衆はじりじりと包囲を狭めていく。そして衝突開始から4時間後、大統領府地下壕に革命軍がなだれ込んできた。
「共産主義者を吊せ!」
「売国奴に死を!」
地下通路を防衛していた警備隊も射殺されてしまい、革命軍はとうとう地下の一番深くにある大統領執務室のドアを蹴破った。
「バカな!私が共産主義者であるわけがないだろう!」
ルーズベルトの必死の弁明も、怒りに燃えた民衆には届かない。年明けからの爆撃によって多くの工場労働者が死んだ。家族を失ったものも多い。そして食料や燃料の供給は滞り、このデトロイトでも凍死者や餓死者まで出る有様なのだ。それもこれも、ソ連を復活させようとした政権中枢に巣食う共産主義者どものせいだったのだ。国民をだまして戦争へ導き、そして多くの国民を殺した大罪人が目の前にいる。車椅子に乗ってか弱い老人の姿を偽装しているが、こいつは紛れもない悪魔だ。怒りに燃えている民衆には、そうとしか映らなかった。
ルーズベルトをはじめとして、執務室にいた閣僚達は革命軍によって地上に引きずり出された。そして、民衆から「絞首刑だ!(Hanging!)」の大合唱が起きる。
「私は大統領だぞ!国を守るために、国民のために働いてきたのだ!それなのに・・・・」
しかし、大統領達の弁明に耳を傾ける者は誰一人としていなかった。大統領府のバルコニーに結ばれたロープがルーズベルトの首にかけられる。もう既に自分で歩くことの出来ないルーズベルトは、何人もの民衆に抱えられて持ち上げられた。多くの民衆が自分も処刑に参加しようとバルコニーに押し寄せる。そして、ルーズベルトを持ち上げている民衆は、後ろから来た民衆に押されて、雪崩を起こしたようにバルコニーから崩れ落ちてしまった。
地面に落ちた人の多くは怪我をしてうめいている。そして、さっきまで自分たちが立っていたバルコニーを見上げると、一人の哀れな老人がロープに吊され揺れていた。
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