第410話 アメリカ中西部占領
サクラメントに進駐した日本軍は、アール・ウォーレンの逮捕を実施した。そして、カーチス・ルメイの身柄を拘束しようとしたのだが、行方を掴むことが出来ない。
さらに、日本軍を驚かす事態が発生した。
「核爆弾が偽物だと?」
「はい、高城中将。大きさと形は資料にあった原爆と一致しますが、中身は空っぽです。残留放射能も一切ありません」
KGBとルルイエ機関の捜査では、広島型原爆が3つ行方不明になっている。それがアメリカ西部地域に持ち込まれたものとばかり思われていたのだが、そもそも持ち込まれていない可能性も出てきた。
ルメイと原爆を運んだと言うB29のクルーを何人か確保することが出来たのだが、これに関しても異常な事態が発生していた。
抵抗するのは当然なのだが、逮捕時に何人かは自分の拳銃で自殺まで図った。逮捕された兵士も、取り調べ途中で頭を床や壁に激しくぶつけるなどして自殺をしたのだ。
そしてその兵士達の素性を調べてみると、奇妙な一致点を見いだすことが出来た。
「ルメイに協力していたと思われる兵士は全員孤児です。全米各地の孤児院出身ですね。その内一人は、リチャード財団が経営していた孤児院出身だったことが判明しております」
「リチャード財団の?いったいどういうことだ?」
――――
「やあ、池田くん、久しぶりだね。今は何処にいるの?時間、大丈夫?」
高城蒼龍は胸の内ポケットから小さな携帯端末を取り出し、池田に電話をかけた。
「やあ、今はサハラ砂漠だよ。例の太陽熱発電プラントの進捗確認に来ているんだ」
サハラの強烈な太陽光に照らされながら、池田は衛星携帯電話のアンテナを伸ばして高城からの電話に応対する。
エジプトのカイロから西に500kmほどの海岸近くに、リチャード・インベストメントの資本で太陽熱発電プラントが建設されていた。合計9棟の集光タワーが建設され、使用されるミラーの数は150万枚を超えている。
集光タワーの先端に圧送された水は、瞬時に550℃にまで加熱される。そしてそれは地上のタービンに送られて発電するのだ。その最大発電能力は100万キロワット(21世紀の大型原発1基分相当)にもおよぶ。
そして、そこで発電された電力を使って大量のアンモニアを生産する。そのアンモニアは肥料としてヨーロッパに輸出されるのだ。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
リチャード・インベストメントが経営していた孤児院の出身者が、ルメイの“同志”として活動していたこと。さらに、ルメイの“同志”たちは皆全米各地の孤児院出身者であることを説明し、孤児院においておかしな事は無かったかと質問した。
「ああ、実は子供たちに洗脳じみたことをしていたシスターがいたんだよ。孤児達が不遇なのは世界が悪魔に支配されているからで、それを救済できるのはリチャード・テイラーしか居ないってね。そのシスターには、そんな教育はしないように指導をしたんだけどな」
「そんなことがあったのか。そのシスターはその後どうなったんだい?」
「ちょっとそういった所に問題はあったが、俺がアメリカを追われるまで孤児院の責任者をしていたよ。優秀な人材だったからね。その後は別の財団が経営を引き継いで、今もその孤児院の責任者をしているんじゃないかな?」
“孤児院を使って洗脳か・・・・。あり得る話だな”
孤児院出身者の動向については、調査できる範囲で調査が続けられることになった。
――――
現地の武装した民衆や一部州軍による抵抗があったのだが、これらは日本軍の指揮下に入った州軍に鎮圧をさせた。武装しているとはいえ、アメリカ市民に対して日本軍が銃を向けることを出来るだけ避けた形だ。こうして、多少の小競り合いはあったが、おおむね順調にアメリカ西部地域の占領は進んで行った。
アメリカ西部地域に進駐した日本軍が最初に手を付けたのは、日系人虐殺に荷担した者達の逮捕だった。生き残った被害者から聞き取り調査をし、リストを作成した後に各州の警察機構や州軍に命じて逮捕を実施させた。
また、ほとんどの日系人が強制収容施設に収容されていたのだが、即時解放し、その収容にかかわった人間全てを逮捕した。
「日系人の強制収容は、ナチスのユダヤ人強制隔離に匹敵する蛮行である」
日本政府は日系人強制収容所に多くの外国メディアを招き、アメリカ政府の非道を世界に知らしめた。
アメリカ政府や収容所を運営していた各州は、暴動から日系人を守るためだと主張したのだが、その収容所での非人道的な扱いが明るみに出ると、世界中から非難の声が上がった。
たったの1年間であったが、その間に収容された日系人の6%が死亡していた。これは、全米の平均的な死亡率の3倍にも達している。慢性的な食糧供給不足による栄養失調や、病気になっても治療を受けさせてもらうことが出来なかった事等が原因だったのだ。
これら一連の事件に関連した逮捕者は7万1000人にもおよび、日系人および有色人種を殺害した罪で5000人以上に死刑が執行された。死刑に処された最年少の者は、犯行時14歳1ヶ月だった。
そして、強制収容所の運営にかかわった者達は、戦争に付随する政府機関の犯罪として軍事法廷が後日開かれることが決定した。
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