第405話 硫黄島宇宙軍基地(3)
「では、こちらをご覧ください」
続いてスクリーンに一機の航空機が表示された。それは、直感的に航空機であろうと思えたのだが、しかし形が異様だ。
まるでオーストラリアのアボリジニが使うブーメランのように翼だけで構成されていて、機首は無く垂直尾翼らしき物が申し訳程度に付いていた。
「これは、先日就役したばかりの無人爆撃機です。名称は二式重爆撃機になります」
写真ではそれほど大きくは見えなかったが、説明によると全幅51mもある巨人機とのことだった。そして爆弾を搭載しない偵察モードだと、高度25000mを時速900kmで巡航できるということだ。
「さらに航続距離は13000kmあるので、キューバの基地からアメリカ全土を完全に攻撃圏内に納めることが出来ます。また、この特殊な形状と電波吸収塗料によってレーダーに映りません。アメリカ軍が開発中の地対空ミサイルや高射砲の届かない場所から、安全に確実に爆撃任務をこなすことが出来ます」
今回招待されている参加者の仲には、各国の軍関係者も多く含まれている。長年軍務に携わってきた人間にはわかるのだ。これがどれほど恐ろしい事なのかと。
白次の説明では、アメリカは最大射高25000mの地対空ミサイルを開発中との事だった。これはレーダーと赤外線によって航空機を識別する方式らしい。この地対空ミサイルが配備されてしまっては、日本軍の九八式重爆撃機だと損害が発生する可能性がある。その為、開発中だったこの爆撃機を急いで完成させたと言うことだった。
「レーダーに映らないというのは本当でしょうか?確かに日本の九七式戦闘攻撃機もレーダーに映りにくいのですが、それでも捉えることが出来ます。これだけ巨大な航空機がレーダーに写らないというのはちょっと信じられません」
イギリス軍のジョンソン大佐が質問をぶつけた。1932年に黒海で日本の駆逐艦の戦闘を見て以来、ジョンソンはレーダー技術の開発に心血を注いできたのだ。それでも日本のレーダー技術には追いつけなかった。そして日英同盟が復活して、本格的に日本からレーダー技術の移転が始まった。その性能に驚愕したものだが、そんな高性能レーダーを以てしても映らないというのには納得がいかない。
「そうですね。少し語弊があったかもしれません。正確には、この二式重爆撃機のレーダー反射面積(RCS)は0.0001平方メートルとなっています。ちなみにイギリス軍のスピットファイア戦闘機が4平方メートルほどなので、おおむねその4万分の1程度の大きさには写りますね。これは、だいたいコガネムシと同じレーダー反射面積になります」
それを聞いた会場の軍関係者は皆思った。
“レーダーにコガネムシなんて写らないよ”
「それでは、二式重爆撃機の初陣を皆さんと一緒に見てみましょう」
会場のスクリーンは、上空から地上を撮影したと思われる白黒映像に切り替わった。
「この映像は、現在飛行している二式重爆撃機からのものになります。4機の二式重爆撃機が、アメリカ・ニューメキシコ州ロスアラモスの上空を飛行しています」
スクリーンの赤外線映像には、山に囲まれた工場群のような物が映っている。
「このロスアラモスは、アメリカ軍の核兵器研究を行っている拠点です。我が国は再三にわたって核兵器の研究を中止するように警告を出していたのですが、残念ながらアメリカはそれを受け入れてくれませんでした。かなり内陸部にあるため攻撃が出来なかったのですが、この二式重爆撃機の就役によってそれが可能となりました」
スクリーンに映っている工場群に目標となる十字が表示された。そして、その十字の横に施設の名称が表示される。
“Nuclear Reactor”
その表示を見て、参加者達は皆固唾をのんだ。
Nuclear Reactorとは原子炉のことだ。1年前の核攻撃の応酬によって、核についての知見が一気に広まった。今では核爆発や放射能の恐ろしさについて世界中の誰もが知っている。そして、原子炉が何であるかも。
「この原子炉で、アメリカはプルトニウムの生産をしています。未だに核保有の野望をあきらめてはいません。その為、我が国はその野望を完全に打ち砕くことにしました。この原子炉を破壊したなら、周囲は放射能によって汚染されるでしょう。そしてアメリカは、日本が条約違反の核兵器を使用したと非難する可能性があります。その為、皆さんには証人になっていただきます」
次の瞬間、正面のスクリーンに落ちていく多くの爆弾が映った。爆弾は周りより少し温度が高いためか白く映っていて、音も無く落ちていく様は非常に不気味に思えた。
そして一分後、目標とされた工場が次々に爆発を起こしていく。
「アメリカには大小併せて25カ所の核関連施設があります。本日より休むこと無く、これらの施設を順次破壊していくことになるでしょう」
会場の参加者は呆然としてスクリーンを見つめていた。白次少将はリアルタイム映像だと言っていた。ということは、あのスクリーンの向こうでは大規模な爆撃が実施され、原子炉が破壊されて多くの人がこの瞬間に死んだということだ。目の前で戦争を見ているのに、こんなにも現実感が無いものなのだろうか?まるで映画のワンシーンを見ているように思っている自分自身にも皆驚いていた。
「それではそろそろロケットの打ち上げの時間ですね。皆さん、展望台にご案内いたします」
――――
展望台からは、2kmほど向こうに真っ白に塗られたロケットが見えていた。少しだけ雲が見える空に、太陽は西に傾き始めている。
展望台にカウントダウンのアナウンスが流れる。そして、そのカウントが0になったとき、ノズルから真っ白な煙が激しく噴き上がってロケットは空に昇り始めた。
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◆作者よりおりいってのお願い◆
以前から少しずつ書きだめていた
「本能寺から始める異世界天下布武 ~転生した信長は第六天魔王になって異世界に君臨します~」
を公開しています。
https://kakuyomu.jp/works/16818093087661842928
実験的な要素がかなりあるのですが、率直で厳しいご意見をいただければ今後の参考になります。
何とぞ、何とぞよろしくお願いいたします。
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