第403話 硫黄島宇宙軍基地(1)

 1942年12月23日


 小笠原諸島 硫黄島(いおうじま)


 一機の旅客機が旋回しながら高度を下げていく。


「あれが硫黄島か?小さい島だな」


 旅客機の丸い窓に額を押しつけてつぶやいたのは、ワシントン・ポストのケーリー記者だ。上空から見る太平洋の色は群青を何度も何度も塗り重ねたように黒く、まるで魂が吸い込まれて行くような錯覚を覚えてしまう。その深淵の真ん中に、濃い緑色の小さな島が浮かんでいた。


「こんな所に秘密基地とはな」


 ケーリー記者が日本行きの仕事を命令されたのは一週間前のことだった。ワシントン・ポストに日本政府から招待状が来たのだ。今は不幸にも敵国同士になってはいるが、人類にとって非常に有益な技術の発表をするので是非来て欲しいと書かれてあった。そして、イギリスのタイムズ紙をはじめとした世界中の新聞記者と一緒に飛行機に乗った。


 さらに、主要国からも政府使節が多数来ている。これも、日本政府から招待状が来たそうだ。


「ドーソン、今日は人工衛星の披露があるそうだが、敵国の人間を招待しても良いのか?アメリカ政府のスパイも紛れ込んでいるだろうに。日本はずいぶん余裕があるんだな」


 ケーリー記者は以前から交流のあったイギリス・タイムズ紙のドーソン記者と合流していた。


「ああ、日本の技術をスパイしてもすぐにはコピーできないっていう自信があるんだろうな。先日“トップ・ギア”っていうカー雑誌が日本車を分解していたんだが、エンジンを制御するコンピューターについては一切わからなかったそうだよ。セミコンダクター(半導体)のチップの中に、電子顕微鏡でやっと見えるくらいの配線がしてあるそうだ。噂じゃ、そのチップの中に真空管が1000万個入っているらしいぜ」


 ※電子顕微鏡は1938年からドイツ・シーメンスが販売している


「えっ?1000万個?そんな、どうやって?」


「知り合いの教授が研究しているんだが、写真技術を使っているんじゃないかって言ってたな。詳しくは俺もわからん。セミコンダクターの製造装置は日本が完全に独占しているからな。まさにブラックボックスだよ」


 ――――


 太平洋に浮かぶこの島には、明治時代より硫黄採取のため人が定住するようになっていた。しかし宇宙軍が基地を作ったため、現在では民間人の居住者はいない。


「ようこそ、大日本帝国宇宙軍硫黄島宇宙港へ。皆さんのご来島を歓迎いたします」


 レセプション会場の壇上では、宇宙軍の白次(しろつぐ)少将がマイクを握って挨拶をしている。それを、200人のマスコミ関係者と300人の各国使節が緊張した面持ちで見つめていた。


「まずは、我が国の宇宙開発の歴史について説明させていただきます。はじめて人工衛星の打ち上げに成功したのは1936年3月になります。これは極秘に打ち上げるため、貨物船からの打ち上げになりました。そして、技術蓄積により安定した打ち上げが可能になったため、ここ硫黄島に宇宙港を建設し今にいたります」


 会場からは「おお」とか「すごい」といった声が漏れる。来客者にはパンフレットが配られており、そこに開発年表が書かれているのだが、やはり言葉で聞くと重みがあるのだ。


「現在では低軌道に偵察衛星兼通信衛星を1021基投入しております。そして今日、さらに24基の衛星が加わることになります」


 1936年にはじめて打ち上げた時は人工衛星一つだけの打ち上げだった。しかし、ロケットの多段化による打ち上げ能力の向上と衛星の小型化によって、現在では一度に24基の小型衛星を投入できるようになっている。その為、この1年間で700基近くの衛星が打ち上げられたのだ。


 当初は偵察衛星の機能だけだったのだが、12基目から通信衛星の機能を追加した。低軌道衛星のため、衛星間通信を使い電波をリレーするようにしている。


 ※21世紀のスターリンク衛星のような機能


「現在ではこの衛星通信システムをつかって、世界中のどこにいても音声だけでなく動画まで送受信することが出来るようになりました。今までは政府機関での利用に限られていましたが、来年より民間での利用が可能となります。本日はテスト的に、東京とロンドンに会場の様子が配信されています」


 その言葉を聞いて、会場がにわかにざわめき出す。新聞記者にとって即時性というのは非常に重要なのだ。それが文字だけではなく、画像や動画までリアルタイムで送れるとなると、報道の世界が変わってしまう。これはまさに“革命”だ。


「質問をよろしいでしょうか?」


 ワシントン・ポストのケーリー記者が手を上げた。


「衛星を使って通信が出来ることはわかりました。そこで気になる点が一つあるのですが、通信内容は全て日本も同じように受信できると言うことでしょうか?その、つまり、世界中の通信を監視することが出来るのではないかと思うのですがどうなのでしょう?」


 それを聞いた白次は、少し目を細めて口角を上げた。


「それはお答えできません。ただ、全ての技術は我が国の安全保障の延長線上にあるとだけお答えします」


 会場はさらにざわめきだした。答えることが出来ないということは、それは出来ると言っているのと同義だ。これからはどんな情報でも、日本に筒抜けになってしまうと言うことなのだろう。


「それでは、次の技術の紹介をはじめます。これは、一ヶ月前から運用を開始した技術です。GNSS(全球測位衛星システム)と呼ばれるものですが、この技術を使うと、地球上のどこに居たとしてもその経度緯度が瞬時にわかるのです」


 白次はマッチ箱ほどの物体を右手に持って掲げて見せた。その機械が会場のスクリーンに大きく表示される。そこには「N24.79125 E141.31399 A16.120」と表示されていた。


 それを見た会場の政府関係者から、ひときわ大きなどよめきが起こった。


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◆作者よりおりいってのお願い◆


以前から少しずつ書きだめていた


「本能寺から始める異世界天下布武 ~転生した信長は第六天魔王になって異世界に君臨します~」


を公開しています。


https://kakuyomu.jp/works/16818093087661842928


実験的な要素がかなりあるのですが、率直で厳しいご意見をいただければ今後の参考になります。


何とぞ、何とぞよろしくお願いいたします。

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