第390話 キューバ革命(2)

 アメリカ ワシントン


「キューバで共産主義革命だと?そこまで政情不安だったのか?」


 ハル国務長官から報告を受けたルーズベルト大統領は、アメリカのお膝元でも問題が発生するのかと自身の不運を嘆く。キューバで革命が起ころうとどうでも良いが、自分の任期中には止めてもらいたいものだ。


「ハバナ市内の複数箇所で一斉蜂起が始まったようです。それと、舟艇によってどこからか2000人の革命軍が上陸したようですね」


「海からもか?準備がいいな。しかし、ソ連が消滅したというのにどこが支援していたのだ?まさか毛沢東なのか?」


 1942年時点において、共産主義を標榜している勢力は毛沢東勢力しか残されてはいなかったのだ。国内での蜂起だけならまだしも、海上からも共産主義勢力が上陸したとなるとどこかからの支援が無ければ出来そうにはない。


「支援についての具体的な証拠はありませんが、現地からはどうも日本製の武器を多く使っているようだとの報告があります」


「何だと!?まさか!?日本が共産主義者と手を組んだというのか?あの反共の塊のような連中が?」


 それまでキューバの革命騒ぎなど対日戦争に比べればどうでもよい些事だと思っていたのだが、日本製の武器を使っているとなると話が変わってくる。


「はい、大統領。現時点では情報が不足しております。キューバのバティスタ大統領からは救援の要請などはありませんが、フロリダから陸軍機を飛ばして情報収集に当たっております」


「キューバにはグアンタナモ基地があるだろう。そこから艦艇や航空機を送れないのか?」


「グアンタナモ基地はハバナから800kmも離れております。フロリダの方が近いので、そちらから沿岸警備艇を出させましょう」


 ――――


 キューバ 首都ハバナ


「アメリカの犬バティスタを逮捕したぞ!」


 トロツキーとチェ・イシワラが率いる革命軍は快進撃を続け、ハバナ市内の現地蜂起市民と合流を果たした。そして、大統領府警備隊内のシンパがバティスタ大統領を逮捕したのだ。


「こ、この裏切り者め!」


 バティスタは大統領府警備隊隊長のチャパに唾を吐きかけた。吐きかけられたチャパ隊長は、表情を変えること無く持っていた小銃の銃床でバティスタの鳩尾(みぞおち)を激しく殴打した。


「ぐふっ」


「バティスタ。貴様は選挙で買収をし、私利私欲のためだけに国家を食いつぶし疲弊させた。その報いだ」


 ――――


「同志チェ・イシワラ。君のおかげだよ。これでキューバの中枢を完全に掌握することができた。大統領府で共産主義国家樹立の宣言をおこなうぞ!俺たち二人の共同指導体制の始まりだ!」


 トロツキーは満面の笑みでイシワラの両肩を叩く。このキューバは世界で二番目の共産主義革命を成功させた国家となったのだ。しかも、ソ連を追われたトロツキー自らが中心になってやり遂げることが出来た。それもこれも、チェ・イシワラのおかげだ。イシワラのカリスマと実行力があったからこそ、この革命を成し遂げることができた。


 しかし、油断はならない。共産主義革命が成功したと言うことは、次に来るのは内部粛清の嵐なのだ。身をもってそれを経験しているトロツキーに隙は無かった。


「同志トロツキー。車の用意が出来ました」


 トロツキーの秘書が駆けよってきて大統領府への案内をする。この秘書は、トロツキーがメキシコに亡命していた頃から支えてくれた信用のできる男だ。細身で少し足が悪いため戦闘には参加していなかったが、トロツキーに常に付き従っている。


「ありがとう同志メルカデル。準備は万全かな?」


「はい、同志トロツキー。あとは同志が宣言をなさるだけです。皆、同志をお待ちしております」


 秘書の返事に、トロツキーはニヤっとした笑顔を返した。嬉しさがどうしても表情に出てしまう。


「では同志トロツキーはあちらの車に、同志チェ・イシワラはこちらの車にお乗りください」


 そう言って、メルカデルは別々の車を案内した。


「同志トロツキー、同じ車には乗らないのか?」


 別々の車に乗るという案内に、イシワラは少し困惑したように問いかける。


「ああ、同志チェ・イシワラ。万が一バティスタの残党に攻撃をされて、我々二人が同時に死んでしまったらこの革命は失敗に終わるだろう。そうならないためにも、これからは二人同時に移動することは慎重にならなければな。同志も私もこのキューバにとって、いや、世界にとって無くてはならない存在なのだよ」


「はは、確かにそうだな。では、大統領府で会おう」


 そして二人は別々の車に乗り込む。秘書のメルカデルが先頭の車を運転し、そしてトロツキーが2番目、イシワラが3番目の車に乗って走り出した。


 乗り込んだ車の後部座席からトロツキーは後ろの車を振り返る。そしてイシワラに手を振ると、それに気づいたイシワラも手を振り返した。


 “バカな男だ”


 トロツキーは何も知らないイシワラを見て口角を上げた。共産主義の世界では、正直者は長生きできないのだ。


 そして次の瞬間、激しい爆発が起こり2番目の車が吹き飛んだ。


 “共産主義の世界では、人を信用するヤツは長生きできないんだよ”


 車から降りた石原莞爾は、トロツキーの車に歩み寄った。そして、車の残骸の中にトロツキーの上半身を見つける。


 そして先頭の車からメルカデルも降りてきて、トロツキーの死体を確認した。


「同志メルカデル。後はよろしく頼む」


 この日、バティスタの残党によってトロツキーが爆殺されたと発表された。そして同日、ホセ・ミロ・カルドナを首班とする親日政権が発足する。


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